
ゆい
@no1sin
2026年7月18日
苦海浄土
中村桂子,
加藤登紀子,
池澤夏樹,
石牟礼道子,
赤坂真理,
鎌田慧
読み終わった
>石田勝はといえば、そのときかなりの痙攣がまた襲って来ていて、ふるえる膝頭を、両腕で抱えこむようにしてうずくまる姿勢をとった。
「大丈夫かい」
ひとびとはかわるがわるそのような様子の彼をさしのぞいた。心の内側の方がむしろ、みかけの痙攣の幾層倍も波打っているようにみえる。それに耐えようとして、頬にときどきぴくぴくとひきつれを走らせながらかなしげに目を閉じ、ひたいに脂汗を滲ませている彼を、しょぽしょぽとみんなは見やる。
「足がなあ、いちばん……」
「うん、うん」
「ちょっとしたことのあれば、すぐもう、こげんしたふうで……」
「うん、うん」
「情なかよ……」
「うーん、誰も彼も同じじゃが」
「いんや、俺んとは、一段ひどかぞ。見かけじゃわからんばってん……」
「うーん」
「ほんに、ちょっとしたことのあれば、すぐ、もう……」
上京以来の出来ごとは、この「はじめて東京にきた」ひとびとにとって「ちょっとしたこと……」などという生やさしいことではなかった。(P.760)