
ゆい
@no1sin
2026年7月18日
苦海浄土
中村桂子,
加藤登紀子,
池澤夏樹,
石牟礼道子,
赤坂真理,
鎌田慧
読み終わった
>ご心配はしんからありがとうございますが親御たちは、ふかぶか微笑うていいなはります。
「うんね、死んでもようございますと。連れて行た先で」
「…………」
「はい、もうみなさま方の前で死んでくれれば一番ようございます。それでこの子も親も本望というもんでございます。
今日はな、美しか服ば着せて来ました。みなさま方にこの子ば見てもらおと思うて。十七年間もな、夜の目もなかごとして育てて来ました。よんべな、風呂にもいっしょに入ってな、匂いのよか石けんで洗うて髪もな、今朝もな、ほら、顔も美しゅう、拭いて来ましたばい。
ねえ、とも子。
ほら、先生方の、よか子じゃよか子じゃち言わすばい、裁判長さまの。
美しゅうなって来たもね、死んでもよかねえ、とも子。今日まで大切に大切にして育てて来たもね。
とも子は宝子じゃもんね、世の中に二人とおらんものを扱うように大切にして来たもね。ねえとも子。
あれ、嬉しかかい、あれほら、嬉ししゃして、とも子が笑いよりますばい。
こう、見て下はりまっせ、よか娘でございまっしょ。手足の指どもはな、ちっと曲がっとりますばってん、こうして揉んでやりよりますとな、ほら、こげん柔らしか小まんか指でございますとばい。お姫さまんごて、小まんか指ですとばい。
ちょっと、土谷さん、社長さんの今日はおいででございまっせんけん、ああた、替りに抱いてみて下はりまっせ、重うございますで。片輪子ですばってん、どうぞな、抱いてやって下はりまっせ。
わたしどもはな、多子持ちでな、次々授かりましたばってん、なかでもこの子はな、最初に出来て、夫婦になって、最初に授かった子はなぁ、宝……宝子ち言いますでな。どうぞ、抱いてやって下はりまっせ」(P.832)
