yomitaos "黄金比の縁" 2026年7月23日

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@chsy7188
2026年7月23日
黄金比の縁
黄金比の縁
石田夏穂
社会人人生で数年、人事に携わったことがある。自社で活躍できる人材の見極めができるはずもないまま、送られてくる履歴書に目を通し、それらしい理由を付して是が非かを決めていた。その際、志望動機や経歴で決めたことは無い。雰囲気だ。数値化できない人柄だ。究極のところ、「なんとなく」だ。だって、何で判断すれば正解なのか分からないから。 ある理由で会社への恨みを募らせた本書の主人公は、人事部で採用に携わった際、ひとつのルールを設けた。できうる限り会社に大きな損害を与えられる人を採用するため、顔の黄金比で可否を決めるということだ。主観的な美醜ではない。各パーツ間の距離を計測するだけなので、高い鼻やきれいな笑窪、美しい目尻などは評価されない。 なぜ黄金比の顔であることが会社に損害を与えられるのかは、見事な論理展開で説明されていく。屁理屈といえばそうなのだが、そもそも採用に正攻法も定理もないし、誰もその基準を示せない。だから結局のところ、人事担当の意向で決まるものだ。それっぽい理由を付けてはいるだろうが、根拠など無い。それなら、明確な理由を示せる黄金比の方が、求職者からすれば理解できるだろう(納得はできないだろうけれど)。 就活模様を描く小説では、朝井リョウの「何者」が極めて素晴らしい心理描写で綴られていると思う。新卒一括採用で苦しむ学生側を描くものしての「何者」に対し、「黄金比の縁」は採用側の苦しみが伝わる物語だ。根底には、システムへの懐疑がある。 「なぜこんな採用の仕組みが前提になっているんだろう?」 「こんな茶番で人生を狂わされる身になってほしい」 味わった経験のある人ならば、誰しもが持つだろう感想。「黄金比の縁」の主人公は、このシステムでまともに人が取れるなんて思ってもいない。苦悩すること自体がバカバカしいと思っている。世界を、社会を「わたし基準」で再定義し、テキトーにサバイブしているところがとてもかっこいい。 狂ったシステムによる曖昧な是非に一喜一憂する方がおかしい。おかしいのはお前だよ、と常に言い返せる自分にありたいと思える名著だ。
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