サイトウユカ "無意味なものと不気味なもの" 2025年3月29日

無意味なものと不気味なもの
2007年に出版された単行本のほうも当時読んでいるが、文庫ではボーナストラック的に一章加わっているので買って再読した。 2007年のときには、取り上げられている小説のなかで車谷長吉「忌中」が気になって読んだのを覚えている。 今回はパトリック・マグラア「長靴の物語」をとりあげた「糞と翼」の章がよく思えた。ひとつの小説の論評の前後を、著者の体験談ではさむスタイルで一冊まとまっているのだが、「糞と翼」の体験談がいちばん趣深い。初っ端のケーキ職人の話はなんでこんなところにこんな話が?と思った。そこからカメレオンに肉を食わせると糞が臭い話に唐突に切り替わる。どういう連想でそうなっているのか、飛躍が予想もつかない方向で驚いたのだった。 とここまで自分で書いていて、「飛躍している」ことがパトリック・マグラア「長靴の物語」と、最後に提示された著者の体験談(精神科病院で催された劇での、天使役の翼についての話)と共通しているのか?と気づいた。 書評というよりエッセイのほうにかなり傾いている本だけど、話し始めからは想像つかなかった場所に見事に着地していて、どの章も読み応えがある。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved