ビスケットアパート "オレンジだけが果物じゃない" 2025年3月29日

オレンジだけが果物じゃない
オレンジだけが果物じゃない
ジャネット・ウィンターソン,
岸本佐知子
まず、好きな本だった。ジャネット・ウィンターソンの作品は『灯台守の話』(これも居場所とされていたところから脱出する話だったはず)以来。彼女のそばには聖書もあったけれど物語があった。挿入される物語が彼女を守るように、出来事の意味を整理していく。事物や事件を物語として理解していかないと次の日に進むのが無理なんだよなあ、とかつての自分に重ねて読む。私は、抱えようと決意したものと身体とが一緒に逃げる話が好きで、その時は、その先にある希望や自由に期待していつも頁を捲っている。そして後に世界が持つ仕方なさと、なんとか付き合ってやっていくことを選ぶ人たちの言葉に触れるのが好き。だから、分かり合えない人たちとして登場する女たちが使う言葉も好きだった。かつて脱出を試みた主人公だったかもしれない、と勝手に思う。 「…犬を連れていきたかったが、母が許すはずがなかったので、茶箱に本と楽器を詰め、いちばん上に聖書をのせた。一つだけ心配なのは、果物屋の屋台で働くはめになりはしないかということだった。スペインのネーブル。甘い甘いヤッファ・オレンジ。おいしく熟れたセビリア・オレンジ」 「…わたしは逃亡者としてこの都に来た。都にはたくさんの塔があり、その建築に目を見張りながら、そして頂からの眺めに胸をときめかせながら、急きたてられるよつに上へ上へと登っていく。でも、たどり着いた頂上には寒風が吹きすさび、景色はあまりに遠すぎて、どれが何か見分けがつかない。たずねたくても、相手がいない。猫なら消防士が助けてくれるし、ラプンツェルには長い髪があった。もう一度、地面に降りてみるのもいいのかもしれない。わたしは逃亡者としてこの都に来た。」
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