いちのべ "愚行録" 2026年7月26日

いちのべ
いちのべ
@ichinobe3
2026年7月26日
愚行録
愚行録
貫井徳郎
一家惨殺事件についての話、と見知っていたが、冒頭に掲げられた記事は「3歳女児衰弱死」。どういうことなんだろう……と読み進めて、そうか、これは彼女の物語でもあるからか、とストンと腑に落ちる。 序盤からずーーーーっとジワジワと人間の厭さを聞かされている感覚があるし、合間に挟まれる兄妹の会話は生育環境に気が滅入るばかりだし。田向(妻)への様々な側面とその評価になるほどねぇとしたり顔で頷いていたら、「な、なんだコイツ〜!?」という田向(夫)のエピソードが繰り出され、「み、宮村……!?」と衝撃を受け、兄妹の会話と事件とが繋がって話が収束する。 冒頭では理不尽に惨殺された被害者への素朴な同情と加害者への怒りを抱いてしまうが、ひとつひとつのインタビューでモヤモヤが、兄妹の会話で哀しみが蓄積していって、最後の最後には加害者への同情が上回ってしまうほど、感情を揺さぶられた。 愚行録、という表現は加害者のみに向けられたものではなく、被害者にも、インタビュー対象者にも、我々読み手にも向けられていそうで。 「誰を一番愚かだと思うか?」「誰に嫌悪感を抱くか?」が、人によって分かれそうなのも興味深いなと思った。被害者のこと(悪口とも解釈できる内容)をペラペラ喋るインタビュー対象者たちを嫌悪する人もいそうだし、兄妹を愚かだと蔑む人もいそうだし、それぞれの価値観が浮き上がってきそうだ。 自分が一番嫌悪感あったのは田向(夫)の大学エピソードでした。一番愚かだなぁと哀れんだのは尾形かな……尾形目線では素敵な思い出なのでヨカッタネーと思いつつ、利用されたとは1ミリも想像できないんだなぁと。 > 私は子供がいませんけど、もし生まれたら絶対に慶応に入れたいと思います。できれば大学からじゃなく、幼稚舎から入れてあげたいですね。そう、内部生として育って欲しいですよ、自分の子供には。(p150) あの大学時代の話をした締めに、宮村からこの言葉が出てくるのめちゃくちゃ怖かった。 > はい、コネがなかったことは田向さん本人から聞きました。私、田向さんのことならなんでも知ってるんですよ。だって、私以上に田向さんを理解している人なんて、他にいないですから。奥さんだって、きっと私ほどは田向さんのことを知らなかったと思います。これは自惚れじゃなく、本当のことです。(p210) 稲村のコレもめちゃくちゃ怖かった。ここのエピソードは、稲村も田向(夫)も理解不能で怖かった。 > でもあたしは諦めなかった。絶対に在校中にいい男を捉まえてやると決心してた。次が駄目なその次、それでも駄目ならまた次って、いい男を探すために本当に努力したんだ。あたし、ひとつのことに打ち込むのが性に合ってるみたい。だから勉強もできたのよね。慶応に入るために勉強したのと同じように、男を捉まえるためにがんばった。(p251) ここがすごく虚しくて。光子には劣悪な環境から抜け出すための資金も、学力も、努力する才能もあったのに、自立して生きる道を思い描くことはできなくて、客観的には芸能人ばりの美人なのに「ブス」としか自己認識できなくて。実父からの性的虐待を受け、大学の男たちからもいいように性的に搾取されて、たった一人の「理想の人」に縋るしかなくなってしまった。光子の奪われたものの大きさを考えると、自分は、光子を愚かだとは一方的に断罪できない。ただただかなしい。
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