ピエ "エーコ『薔薇の名前』" 2026年7月30日

ピエ
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@pie_202
2026年7月30日
エーコ『薔薇の名前』
図書館で見かけて手に取ったところ、先日読んだ『カタリ派とアルビジョア十字軍』で解説を書いていた図師宣忠による本だった。あの解説は分かりやすかったな…と思い借りてみたら、この本もとても読みやすかった。内容が簡単なわけでは決してないが、文体が滑らかで論考の繋がりが明確なために読みやすく感じるのかもしれない。 昨年末に日本語訳の完全版が出た『薔薇の名前』を、史学の観点から読み解く本である。図師先生の専門は西洋中世史、まさに『薔薇の名前』の背景世界だ。 宗教的な背景に始まり、モデルとなった修道院や中世の写本文化、異端審問などについて語られており、『薔薇の名前』の世界をより鮮やかに思い描けるようになる。ただ、ネタバレには配慮していないので、中世やキリスト教の知識が全く無くとも、本編を先に読んだ方が良いと思う。 改めて、エーコがいかに膨大なテクストを再構成してあの世界を構築したのかを思い、気が遠くなった。 例えば、作中でのベルナール・ギー(実在した異端審問官)による尋問は、かれの記した審問マニュアル『異端審問官提要』に書かれた手法に倣っているというのが面白かった。こうしたディテールを積み上げ、知識の浅い私のような読者の前にも、中世の修道院がまざまざと描かれるのだ。 図師は『薔薇の名前』を、氾濫する断片的な情報を読み解き、そこから世界を再構築する書物として捉えている。これこそまさに歴史学の手法であり、インターネットの普及を経て拡大し続ける情報の洪水に翻弄される我々にとって、「文系」の学問を学ぶ意義にも繋がるのであろうと思った。
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