プールに降る雨 "4 3 2 1" 2026年7月30日

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ポール・オースター,
柴田元幸
“選択肢は二つしかなくて、表通り裏通り、どちらも利点と欠点がある。たとえば表通りを選んで、時間どおり面接に着いたとする。そしたら自分の選択について何も考えたりはしないだろう? そしてもし裏通りを選んで、約束に間に合ったら、やっぱり同じで、一生そんなことはいっさい考えないだろうよ。だけどここから話は面白くなる。表通りを行って、三台の車が玉突き衝突して一時間以上交通がストップしていたら、車の中で動けずにいる君はひたすら裏通りのことを考え、なぜあっちに行かなかったんだと自問し、間違った方を選んだ自分を呪う。だけど本当に間違った選択だったと、いったいどうやってわかる? 裏通りが君には見えるか? 裏通りでいま何が起こっているかわかるか? 巨大なセコイアの木が裏通りに倒れてきて、通りかかった車を叩き潰してドライバーが死んで、交通が三時間半止まっていることを誰かが君に知らせたか? 誰かが時計を見て、もし裏通りを行っていたら潰されたのはきっと君の車で死んだのは君だったと伝えたか? あるいは、木など倒れはせず、表通りを行ったのは間違いだった。あるいは、君は裏通りを行き、 木が君のすぐ前の車の上に落ちて、ああ表通りを行くんだった、と身動きも取れず車に乗ったまま悔やむ君は、どのみち表通りを行っても三台の玉突き事故で面接に間に合わなかったことを知らない。  要するに何が言いたいんだ、アーチー?  自分が間違った選択をしたかどうかは絶対にわからないってことさ。わかるためにはすべての事実を知る必要があり、すべての事実を知るためには二つの場所に同時にいる必要があり、それは不可能だ。  で?  で、だからこそ人間は神を信じる。  それって冗談ですよね、ムッシュー・ヴォルテール。  神のみが表通りと裏通りを同時に見ることができる。すなわち、君が正しい選択をしたのか間違った選択をしたのかは神のみがわかる。  神にわかるとどうして君にわかる?  わからないさ。でも人間はそういう前提に立つ。あいにく神は、どう思っているのか絶対人間に言ってくれない。  こっちからいつだって手紙は書けるぜ。  そのとおり。でも書くことに意味はない。  何が問題なんだ? エアメールの切手代がないのか?  宛先がわからないのさ。”p.225
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