やん "アフターダーク" 2026年7月30日

やん
やん
@grilledyangyang
2026年7月30日
アフターダーク
とても不思議な面白い『私たち』という視点が、この無機質で状況を網羅的に説明する文体にとてもマッチしている。 真夜中の繁華街という、人の欲望渦巻く舞台と『私たち』の口調とのミスマッチ感も綺麗に収まっていて、それが冬の夜の乾いた北風を何となく感じさせる。気持ち良く深呼吸したくなるのに、目一杯吸い込むと肺がキリキリするし、肌は少し痛いような、なんだか奇妙な雰囲気の本だった。 「結局なんの話だったのか」を考えると、はて、なんの話だったんだろう? きっとこれは、過去の傷について見た、益体もない一夜の夢だったのだ。 全員が何らかの挫折や傷を抱え、今の現象界を生きている。普段は社会の中で表面的なペルソナは取り繕っていても、その人の奥深い部分にある傷が『夢』として観測されている。 登場人物全員、過去の傷の夢を見る。 浅井エリも夢を見ている。 それは、誰もいない孤独な部屋だ。 いや、テレビという無意識への扉を通して、見ていた誰かがいた。 顔のない彼は、『浅井エリという役割に期待するが浅井エリという個人を見ない(見てくれていると浅井エリが思えない)周囲の人々』のイメージなのではないか。 そう解釈すると、『私たち』という視点の人物もまた、都市に渦巻く『集合的無意識』だったのではないだろうか。 そうした“傷の夢”を癒すのは、“何か理解してくれそうな”誰かの“好奇心”という名の関心なのかも知れない。 ......などと、読み終わりたての放心した脳に浮かんだ言葉を、つらつらしたためているけれど、この小説にこんな考証など無意味である。忘れてくれて構わない。 結局どんな話だったのかと問われても、はて、答えに窮する。これは一夜の夢なのだ。ゆえに、特筆する物語はない。 オシャレな音楽雑学と、洒落臭い文章、含蓄ありそうな「そんな歯に物が詰まったような喋り方する大学生がいるかよ」と思うセリフが、落ち葉のように積もっているだけだ。 それが、妙に心地よい。深呼吸すると肺が少しキリキリ痛むのに、それでももう一度、大きく息を吸いたくなる。冬の夜長のような作品。
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