
のぼりおり
@noboriori
2026年8月3日
火星の女王
小川哲
読み終わった
結晶構造が同期して変化する「スピラミン」やら、「国際宇宙開発機構」やら「ネメシス5」やら、いかにもSF的な用語を使いながら、100年先の火星と地球を舞台にストーリーは進行するのだが、結局は100年先も人類の内側で「敵だ、味方だ」をやっているという皮肉。
人々の頭上に渦巻くのは最先端テクノロジーと見せかけて、結局は言葉であり、ある種の物語。リリが「火星の女王」に祭り上げられていくさまには、英雄(という物語)を求めざるをえない人類の滑稽さすら見え隠れする。この人類の性質をわかっていたのがマディソンであり、彼は言葉と物語をもってして人々を動かそうとするが、実はその中身は空虚だったのでは。
ラスト近く、リキ•カワナベは「そもそも、どうして我々は存亡を賭ける事態に陥ったんだ。地球は火星を理解せず、火星は地球を理解せず、お互いがお互いの間に勝手に線引きをしたからだろう」と言う。ごもっともである。火星vs地球の戦争、という物語を構築するとみせかけて、「だからなんだ」ってことでその物語を解体する。読者への牽制球というか、突き放しが面白い。
そして、この突き放しを経るからこそ、最後の最後にあるやり取りがとても素敵だった。特にラスト1行、この小説の最後にこの台詞は沁みた。


