
のぼりおり
@noboriori
- 2026年10月26日
二度のお別れ黒川博行読み終わった黒川博行のデビュー作であり、大阪府警(黒マメ)シリーズの第一作目。同僚に薦められて、初めて黒川博行作品を読んだ。 今の時代に読むと、「銀行強盗犯が400万円強奪とともに客を誘拐、身代金として1億円を要求する」という設定からしてタネがバレ気味ではあるのだが、しかしラストでもう一展開もってくるのは面白い。電話や指紋のくだりなど、シンプルながらきちんと仕込まれたトリックがしっかりと効いてくる。 会話のユーモアがくどいわりに登場人物の魅力がイマイチ伝わってこなかったりと、いかにも初期作品といった感じではあるのだが、引き続きこのシリーズを読んでみようと思わせるだけの面白さは十分にあった。 - 2026年10月23日
読み終わった癇癪と後悔を行ったり来たりするパターンの繰り返しで、その意味で読み手も「あぁ、またいつものが始まるぞ...」という気持ちになるのだが、そこに至る主人公の心理描写が巧みで、また文章も非常に上手いので、いつの間にか没頭して読んでしまう。感情移入はできない、というか感情移入なんて到底許されないほどに自我剥き出しではあるのだが、そこに他者を小説として読むことの麻薬的な快楽がある気がする。 収録されている三編はどれもよかったが、特に『一夜』の「男も女もこのあとの展開(=暴力)がわかっているのに今更引くに引けない」というあまりにも人間らしい描写が凄まじい。そして、ラストで(未来から見た)その後の顛末を提示することで一瞬だけ謎のペーソスが漂うのだが、結局は「自業自得だろ!」というツッコミをせざるをえないのである。 - 2026年10月20日
置き配的福尾匠読み終わったコロナ禍で社会に浸透した荷物の置き配とは、物の受け渡しそれ自体ではなく、物が配達された事実の確定と共有であるとし、その形式やシステムがコミュニケーションや社会のあり方にまで波及していくさまを「置き配的」としているのだが、まえがきで著者が述べているようにこの「置き配的」というキーワードを深掘りしていくような本ではない。置き配的、をとっかかりとして批評のあり方、言説空間としてのSNS、あいちトリエンナーレでの表現の不自由展、そして蛙化現象や犬の散歩等に至るさまざまなところへと考えを巡らす。 なので、何に関する本なのかという説明が難しく、内容もドゥルーズやフーコー、ダナ・ハラウェイあたりを引っ張ってきて難解な部分もあれば、わりとすんなり読める部分のムラがある。「置き配的な社会ってこういうものでこういう問題があって、こういう解決の方向性があるよ」というよくある新書のような本ではそもそもないし、個人的には内容が散漫に感じてしまったのだが、ただその時々に角度の鋭い論評もある。ネットでよく見かける(語彙力)(伝われ)という表現の背景にある「感想」の問題などは特に面白い視点だった。 - 2026年10月17日
- 2026年10月14日
煙の殺意 (創元推理文庫)泡坂妻夫読み終わった泡坂妻夫の短編集。短編だからか解決が急ぎ足というか説明臭い部分も一部あるが、全体としてはなかなかのクオリティ。 特に表題作は、さすがの泡坂妻夫だと唸った。デパートでの大火災とアパートでの殺人事件を並行して語りつつ、ホワイダニットとしての解決はそうきたか!という感じ。殺人事件をそう扱うか、という予期せぬ視点の提示が面白い。 亜愛一郎シリーズのほうが登場人物の魅力や展開のスマートさは上だと思うが、こちらはこちらで意外性を楽しめた。 - 2026年10月10日
合本 IT【文春e-Books】スティーヴン・キング読み終わった約1900頁、やっと読了。 単純に前半が子ども編、後半が大人編になっているのかと思っていたがそうではなく、後半以降はそれぞれの時代の話が切り替わり、そのなかでまたどの人物の視点かも切り替わっていく。なので、それぞれの登場人物が体験してきた恐怖を追体験していくように物語は進んでいく。単にモンスター的な怖さだけではなく、人間の業みたいなものが見え隠れするのもまたぞくりとする 個人的には、洗面所の排水口から死んだ子どもたちの声が聞こえたあと、排水口にメジャー(巻尺)を少しずつ突っ込んでいくシーンが非常に印象的。日常のすぐそこ、というかすぐ"底"に潜む異形の怖ろしさを、その姿を直接現すわけでもなく抜群に表現しているなと思った。 「そのエピソードいりますかね?」的な部分もなきしもあらずだが、結局はそれがデリーという町の解像度を上げるので、しっかり読ませるという感じ。ITの出自というか由来も個人的にはややハテナマークだったが、巻末の解説読むと一応は納得。まぁ、そんなこまけぇこたぁどうだっていいんだよ、というくらいにパワフルな大長編だった。 - 2026年10月1日
合本 IT【文春e-Books】スティーヴン・キング読んでる900頁くらい読んでやっと半分ほど。大人編がスタートしたあたり。 確かに長いのだが、人々と町の描写が読ませるのでだれない。みんなでダム作っておっさんに怒られたり、女の子と映画観に行ったりと、ベースにある日常性溢れるノスタルジーがしっかりとしているからこそ、突如として顔をのぞかせる得体の知れない"IT"があまりにも怖い。 - 2026年9月21日
ユニヴァーサル野球協会ロバート・クーヴァー,越川芳明気になる - 2026年9月19日
プロジェクト・ヘイル・メアリー 下アンディ・ウィアー,小野田和子読み終わった未知の領域や予期せぬ出来事に科学的知識で挑むSFとしての面白さ、片方のピンチをもう片方が救い、またあるときはもう片方の危機に片方が手を差し伸べるというバディものの楽しさを両立させ、とにかく続きが気になり続けた下巻。「え、まさかロッキー、そんな...」とか「そっか、グレースならそういう選択をするよなぁ」などと感情移入しながら一難去ってまた一難的展開を並走するような読書体験だった。 人間臭いけどへこたれないグレースと、読み進めれば読み進めるほど愛おしくなるようなロッキーのキャラクター造形がとにかく魅力的で、互いがたまに毒づいたりと2人のテンポ良い会話自体が楽しい。困難を乗り越えるごとに互いの信頼が増していくさまもまたよい。 物語の終わりも見えてきたか、といったところでもう一展開あったときは唸った。SFとバディものを両立させる作品として、なるほどそういう落としどころかといった感じ。あとラストもグレースらしさというか、過去パートでみえたグレースの子どもたちに対する想いを変奏させて示しつつ幕を閉じたのは上手いなぁと。 話題性も前評判も凄い作品ではあったので読む前は期待7割不安3割といったところだったが、期待を十分に超える傑作だった。 - 2026年9月16日
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上アンディ・ウィアー,小野田和子読み終わったロッキーがかわいい。未知なる存在のことが少しずつわかってきて、コミュニケーションをとっていく様が楽しい。あとロッキーかわいいね。いざ下巻へ。 - 2026年9月11日
プルースト効果の実験と結果佐々木愛読み終わった女性を主人公とする恋愛短編4作を収録。 巻末解説で間室道子さんが「『なつかしいなあ』ではなく、私は本書の読書中、青春のただなかにいた。」と書いているが、まさにそれだ!と思った。 私は男性なので女子高生だったことはないし、収録作を読んで「わかるわかる、恋愛ってそういうことあるよね〜」という共感が生まれたわけではない。ただ、登場人物と淡い悲しみを共有するような、同じ時間、同じ空間で彼女らと経験を共にしていくようなそんな作品群だった。 特に表題作は、受験勉強期を舞台に「たけのこの里」「きのこの山」を使ったプルースト効果の実験、そして図書館と静かながらどこかチャーミングな司書という設定からして惹き込まれる。「小川さん」の人物描写も印象的で、「はじめてのキスは想像もつかないところでしよう」なんていう台詞を効果的に置けるのはその描写あってこそだろう。だからこそ、主人公が小川さんとの記憶をか細い手で辿っていくような過程は胸に迫る。とはいえ、恋愛が終わってしまった悲しみを単に描くのではない、多少いびつながらも前を向こうとする若さに読後感がよかった。 - 2026年9月7日
長い一日滝口悠生気になる - 2026年9月7日
読み終わった『意識と本質』『意味の深みへ』を読んだ際に井筒俊彦の思索がもつ射程の広さと深みに、(理解が及ばない部分も少なくなかったが)大きな面白さを感じたし、いまでも「この話は井筒が言っていたあの議論と似ているな」などと思うことがある。 本書は「ある」「空」「無」などをめぐる「東洋」哲学の考え方、そしてその根底に迫ろうとした井筒の思索を追う。なお、「東洋」が括弧付きになっているのは、仏教やイスラーム、インド哲学といった地理的な東洋の哲学だけを領域とするのではないからである。 終章では井筒が突き詰めなかった部分にまで踏み込み、著者なりの論を示しており、その着地点は意外性もあり面白い。あらためて井筒俊彦の著作にも手を伸ばしたくなった。 - 2026年8月31日
オルゴーリェンヌ北山猛邦読み終わった「少年検閲官」シリーズの第2作。前作よりも物語は長く、起きる殺人事件も多く、そして用いられるトリックの数も質も上回っている。 世界観設定が独特であり、かつファンタジック、しかも冒頭からくどいくらいにこの世界観を押し出してくるために「ミステリー小説を買ったはずなのにこれは一体...」と感じるタイミングがあったのは事実。しかしながら、まさにこの過剰なほどの世界観があるからこそ、ラスト数ページのカタルシスは素晴らしい。 トリック、特に塔の密室トリックは好き嫌いがわかれそう。だが、本作だからこその盲点を突いたのは面白い。 - 2026年8月27日
ホームレス夫婦、「塩の道」1014キロを歩くレイナー・ウィン,笹山裕子,金原瑞人気になる - 2026年8月27日
読み終わった仕事に疲れて帰ったりしている時に、他人を見てふと「楽そうな仕事でいいなぁ...」と思うことがある。自分ばかりが大層な仕事をしていて、自分ばかりが疲弊していく、と思い込んでしまうような。 実際はそんなことはなく、たとえばこの小説に出てくる「おかきの袋裏に書かれている豆知識を考える仕事」「町の循環バスで流れる広告アナウンスをまとめる仕事」にも、面白さがあり楽しさがありやりがいがありミステリー(?)があり、そして大変さがある。 別にこの小説は「あらゆる仕事にはやりがいがあるよ!みんな頑張ろう!」ということでもなく、「仕事なんていう資本主義的ゲームからはとっとと降りてスローなライフを送ろうよ」という話でもない。この小説を読んだから明日からの仕事が楽しくなるわけでもない。ただ、それなりに清く正しく一生懸命に働く自分と周りの人たちへのリスペクトが増すような、そんな1冊。 - 2026年8月25日
行人夏目漱石読み終わった他人のことがわかる、とはいったいどういうことなのだろうか。我々はお互いにわかっている感を演出することで日常を平穏に過ごし、心の平生を保とうとしているが、実はわからなさこそが他人なのではないか。 こう考え出すと、本作の一郎のような袋小路に入ってしまうのか。『彼岸過迄』の感想で「登場人物がみんな少し変人」ということを書いたが、夏目漱石はこの絶妙な人間関係、男女関係のブラックボックスを描くのがあまりにも上手い。単なるあるあるでもなく、極端にドラマチックでもない、人物描写の上手さ。重厚なテーマながら読み疲れさせないあたりもさすが。 - 2026年8月17日
脳科学者の母が、認知症になる恩蔵絢子読み終わった内容はタイトル通り。認知症になった母親のエピソードを語りつつ、なぜそうした言動が発生するのかを脳科学の視点から解説を試みる1冊。 「試みる」としたのは、「脳科学に言うと認知症のこうした言動にはこんな原因があります、はい一件落着ですね」というスタンスではないからだ。いわゆる健常者からは理解しがたい認知症患者の言動をとっかかりに、むしろ"健常"なるものの不思議さや曖昧さへとその視点は向かっているといえる。特に記憶や感情に関する解説は興味深く、まわりの人たち、そして自分自身の日々の過ごし方に意外な見方を与えてくれる。 脳科学者である著者が、認知症のすべてを理解し、母親に常に万全な対応をするわけではない。自分の作った手料理を食べてくれない母親に苛立ってしまう姿も赤裸々に語っている。しかし、病前とはすっかり変わってしまった母親の言動にも、仲が良く、娘(著者)を大切に想う母親の"らしさ"を見つけようとする姿勢は確かである。 「もしも自分が著者と同じ状況に置かれたらこうありたい」と言うのは現実を知らない理想論かもしれないが、少なくともそのための視座を示してくれる良書だった。 - 2026年8月15日
小さきものたちのオーケストラチゴズィエ・オビオマ,粟飯原文子読み終わった前作の『ぼくらが漁師だったころ』は個人的オールタイムベスト級に素晴らしかったが、続く本作も傑作だった。 精霊を語り手として、その宿り主の数奇な運命を描くという独特の設定。巻頭に宇宙論の図解があったのはさすがに面食らったし、本編が始まっても最初の頃はわけわからん部分も少なくないが、読み進めていくと意外と慣れていく。 前作もそうだったが、大掛かりな陰謀や策略に巻き込まれるわけではないのに運命論的にじわりじわりと悲劇へと転じていくさまはかなりの読み応え。また精霊を語り手とすることで、心理描写も説明臭くならずに読ませる。 3作目である『The Road to the Country』の邦訳も待ちたい。 - 2026年8月8日
読み終わった『敗戦後論』を批判するアメリカ学術界に対する反論が初公表されて、加藤典洋が目下再注目と再評価、そして再批判されているが、私はちょうどこの本を読んでいるところだった。 加藤典洋と江藤淳という2人の文芸評論家が、戦後というものにどう向き合ってきたかを彼らの言葉を引用しながら丹念に迫る1冊。前半〜中盤は江藤淳への言及が多く、後半は加藤典洋が中心。『限りなく透明に近いブルー』をめぐる話題が非常に興味深かった。 ともすると危ない保守派とされがちな江藤淳、そして『敗戦後論』の賛否両論で論壇からの評価が定まらない印象のある加藤典洋だが、両者ともに国家や憲法、歴史といかに真剣に対峙してきたがわかる。特に後半の加藤典洋に関するくだりは、評論という営みそのものを読み解く試みなのではないか。 與那覇さんの著作はけっこう読んできたが、冷静な筆致はもちろん、引用される本や論考に気になるものが多く勉強になる。今回も、何度か引用される加藤、江藤、竹田青嗣の鼎談があまりに面白そうで、掲載されている『批評の戦後と現在』をポチッてしまった。
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