
RIYO BOOKS
@riyo_books
2022年12月29日

ヴェニスの商人
シェイクスピア,
福田恒存
読み終わった
慈悲は強いられるべきものではない。恵みの雨のごとく、天よりこの下界に降りそそぐもの。そこには二重の福がある。与えるものも受けるものも、共にその福を得る。これこそ、最も大いなるものの持ちうる最も大いなるもの、王者にとって王冠よりふさわしき徴となろう。手に持つ笏は仮の世の権力を示すにすぎぬ。畏怖と尊厳の標識でしかない。そこに在るのは王にたいする恐れだけだ。が、慈悲はこの笏の治める世界を超え、王たるものの心のうちに座を占める。いわば神そのものの表象だ。単なる地上の権力が神のそれに近づくのも、その慈悲が正義に風味を添えればこそ。