
うめこ
@umekoumekoyeah11
2026年8月6日
仮面の告白
三島由紀夫
読み終わった
つらつらと読了。多分、三島由紀夫が、割と真面目に〈三島由紀夫〉してる系長編を読み通したのは初めてである。(多分な)この人は何となくピンと来ない作家で、当人が真剣に書いてるらしい作品に限って、何やら入り込めなくて放り出してしまう、の繰り返しだったのである。
で、一応初めての通読という事になるんだが。まあ、諸々、他の人の批評やらで概要は知ってる上での読書だったので、新鮮味とかはないのであるが。コレを私なりにどう把握すれば良いか、と考えると──雑に要約すれば『不能の文学』とでも言うしかないもののように感じた。
そもそもが「仮面の」告白である辺り、作者は慎重に主人公=作者本人と同定される事は避けて(敢えてそう同定されるよう誘ってもいるが)、あくまでフィクションとしてこの作品を構築しているから、三島由紀夫こと、平岡公威のセクシャリティの実際がどうだったか、という事を云々するのは野暮な気がする。かつ、あくまで仮構の主人公の独白として、小説として読んだ時も、コイツの葛藤の主要因は「男性同性愛」ですらない気がするのである。
主人公が、女性よりも、男性に強烈に性的に惹かれる傾向を持っている事は確かだけれど。……それで、作中、少しでも生き生きした形で、恋愛を感じさせる描写は、中学時代の近江に対するそれだけであるけれど。近江に対する恋着すら、自覚した途端に強烈な嫉妬に転化されてしまって、実際の関係の中で(それが破綻にせよ成就にせよ)決着をつける事がまるで出来ない。その苦悩を延々と書いていて、一体コレは何の告白なんだと首を捻ってしまった。
結局彼は「人を愛せない」という事を、妙に真面目で明晰な思考の中で延々と考え倒し、悩み倒し──その事に何の出口も見出せないまま、日向で生ぬるくなる、溢れた飲み物の描写で唐突に話は終わる。(コレは、結局彼には自己完結した〈悪癖〉しか、自分の衝動を解決する術がない、という無力感の描写に思える)
……何だこれは、虚しい。
あんまり虚しくて、その事でこの主人公に同情的になってしまう位だが、多分そんな同情は全く受け付けないであろうヤツだけに、何だか哀しい。
実質のデビュー作でこれならば、確かに行き着く果てはあんな茶番めいた死に方しかなかったかもしれない。
相変わらず、自分はこの作家とはどこまでも平行線だろうなあと思う読後感ではあるけれど、私がこの作品を評価するならば「ナルシシストが、これ程率直に、己の無力感や苦悩を語っている文章もそうはないのではないか」という事かも知れない。ナルシシストは全く、正直に自分を開示するという才能を書いているのが通常だから、こんなにも「愛することの不能」に延々と悩む様を開陳する独白なぞ、まずお目にかかれない。
その点では確かに稀有だ。
平岡公威が、〈三島由紀夫〉という作家になり、尚且つ「仮面の」告白などと、さらに誰が何を言ってんだかをややこしくする回路を挟んで、ようやく絞り出した──彼があんまり真面目だったのは確かで、この作家のそういう側面を酷く痛ましくは感じるのである。……全く、彼に望まれる読み方ではない気がするが。
にしてもこの主人公には思わん事はない。どっちに転んだとしても、近江には告っとけよ。