
CandidE
@araxia
2025年3月27日
転落
カミュ,
前山悠
読み終わった
人間とは責任ある知性である。責任とは他者との関係における影響の自覚であり、責任は必ず裁きを伴う。裁きは責任を価値判断で色分けし、その判断は他者のみならず自分にも跳ね返る。その際、正邪理非の判断には非難、罪悪感、恥といった情緒が付随する。この呪いに人は耐えられない。自らの偽善と虚栄の直視による既存の自己像の崩壊は、こうして自己欺瞞へと帰着し、直後に人は裁きと自己欺瞞の無限後退という袋小路に囚われる。
クラマンスが体現するこの『転落』の過程は、皮肉にも近代的知性の最も誠実な到達点であり、その意味で人生の華とも言える。不条理を直視し、連帯による抵抗を説いた『ペスト』の先にあるのは、より複雑な自己との対峙であった。カミュと袂を分かち、作中で暗に批判されていることを理解しながらも、サルトルが本書を「おそらく最も美しく、かつ最も理解されていない作品」と評したのは、これが単なる告白小説ではなく、近代的自己意識の行き着く先を描いた寓話だからで、その精緻で巧みな表現に、サルトルはカミュの思想的成熟を認めたのだと思われる。早逝が悔やまれる。