川内イオ
@iokawauchi
2025年3月31日

父の恋人、母の喉仏
堀香織
読み終わった
同業の先輩で友人、堀香織さんの著書『父の恋人、母の喉仏 40年前に別れたふたりを見送って』読了。
確かに父母を見送る話だけど、しっとりしんみりした内容ではない。堀さんは「人たらし」で3度も結婚したお父さんのテキトーな言動に呆れながら何度もツッコミを入れるし、歌舞伎町で働きながら3人の子どもをひとりで育て上げた母の恋やお店のお客さんとの交流なども登場する。
お涙ちょうだいのエモさもなく、面白おかしく茶化しもせず、かといってドライでもクールでもない。「ふたりの娘」「プロ物書き」として見事なバランスを保ちながら描かれた、ひとりの人間としての父と母。その人生は微笑ましくもあり、切なくもある。
父母の物語が横糸だとしたら、堀家の縦糸は筆者である堀さんの存在。子どもの頃に生活を共にした父親の元恋人に会いに行ったり、母が働いていた店でホステスをしたり、母とその恋人と3人で出かけたり、独特の感性と行動力が読者を飽きさせない。
同業者としての視点でいえば、場面、場面のディテールに目を見張った。細かな描写がリアリティを高めることで、映画やドラマのように登場人物が動く。カフェでこの本を読み進めていた僕は、「聴診器」のシーンで笑って泣いた。
友人としての贔屓目なく、ひとりの読書好きとしてこの本に引き込まれ、一気に読了した。思いのほか爽やかな読後感で、僕はすっかりいい気分になってカフェの席を立った。
