
オハナ
@flower_books
2025年3月31日

赤い月の香り
千早茜
読み終わった
前作は「透明な夜」の名に相応しい、静かで揺らぎのない濃紺をイメージする話でしたが、今作は赤という刺激の強さが常にありざわざわと心を乱しながら読みました。騒めく度に朔さんのぶれのない口調と言葉に落ち着きを取り戻し、気づけば自身のために彼の香りを希求する満の気持ちに寄り添って読んでいました。
赤という色は、白とともに並べると情熱や元気、生命を感じさせるイメージを持つのに、黒と並べると血や傷、死を連想させる場合もある不思議な色です。話の節々に現れる「赤」がどのような意味を持つのか。それは朔さんのように香りで全てを理解することができない我々のために与えられるヒントだったんだろうと思います。
一香と兄、満と母、朔さんは家族と壁のある人たちと関わることで自身の過去を見つめ直しているのでしょうか。そんな中で「普通の親」をもつ新城と関わり続けることは不変的な彼の居場所なんだろうとも思いました。前作よりも少しだけ朔さんのことがわかった今作。今後も絶対また続いて欲しいと思います。
この空気感と澄みきった香りのする文章をこれからもあじわいたいです。


