
RIYO BOOKS
@riyo_books
2023年7月8日

ラブイユーズ
バルザック,
國分俊宏
読み終わった
「あの人と一緒になって五十年になるけれど、一度だって私の財布には六十フラン入っていたことすらないんだよ。財産を取り返すためじゃなかったら、おまえさんたちをこの牢獄のような家に呼ぶなんて、絶対しなかったけどね」
「でも、それでどうやって生きているのです」ジョゼフは、フランスの芸術家が決して失わない陽気さで無邪気に尋ねた。
「それはただ」老女は答える。「神様にお祈りしながら生きているんだよ」
この言葉にジョゼフは軽い慄きを覚えた。にわかにこの老女が大きく見え、思わず二、三歩下がってその顔をまじまじと見つめたほどだった。その顔は光り輝き、実に優しい静謐さに満ちていたので、ジョゼフは「あなたの肖像画を描かせてください」と言った。