くりーむ "太陽と鉄・私の遍歴時代" 2026年8月11日

くりーむ
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@cream
2026年8月11日
太陽と鉄・私の遍歴時代
《2つの肉体について》 ずっと昔に手に取ってみて、意味がわからなかったので読んでいませんでした。 チャレンジしてみようとおもって開いて、とりあえず最後まで耐えて目を通した、という感じです。 とりあえず、最初の5ページ分だけ考えてみます。 いきなり第2段落からこんな調子です:「私が「私」というとき、それは厳密に私に帰属するような「私」ではなく、私から発せられた言葉のすべてが私の内面に還流するわけではなく、そこになにがしか、帰属したり還流したりすることのない残滓があって、それをこそ、私は「私」と呼ぶであろう。」(p.8) 帰属したり還流したりすることのない残滓が「私」である、これはなかなか難解な表現です。 引用文をみてみると、まず還流しているのは言葉ですから、還流しない残滓というのは non-trivial な状況下では言葉という概念のサブカテゴリーだということになります。残滓という表現にも注意しておきます。それは、滓なのであって、使用によって残ったもの・もはや元通りではなくなってしまったものにほかなりません。 さて、次のように続きます: 「そのような「私」とは何かと考えるうちに、私はその「私」が、実に私の占める肉体の領域に、ぴったり符合していることを認めざるをえなかった。私は「肉体」の言葉を探していたのである。」(p.8-p.9) 先ほど確認したように、「私」というのは、帰属せず還流しない、なんらかの滓として残った言葉のことであり、その別名が肉体だ、ということです。このことは、非常に有名な次の一節において、よく説明されています: 「私にとっては、言葉の記憶は肉体の記憶よりもはるかに遠くまで遡る。世のつねの人にとっては、肉体が先に訪れ、それから言葉が訪れるのであろうに、私にとっては、まず言葉が訪れて、ずっとあとから、甚だ気の進まぬ様子で、その時既に観念的な姿をしていたところの肉体が訪れたが、その肉体は言うまでもなく、既に言葉に蝕まれていた。」(p.9-p.10) 三島がここで肉体と呼ぶものは、「観念的な姿をしていたところの肉体」なのであって、すでに言葉の領域のなかにあります。その肉体の姿というのは、「言葉が現実を蝕むその腐蝕作用」の結果であり、言葉の持つ本性に接続しているということができます。 腐蝕作用という言葉が何を意味しているのかは、この段階では判然としません。しかし、言葉の腐食作用は、銅に対する硝酸の腐蝕作用とは異なるものであるということは説明されます: 「言葉は現実を抽象化してわれわれの悟性へつなぐ媒体であるから、それによる現実の腐蝕作用は、必然的に、言葉自体をも腐蝕してゆく危険を内包している。むしろそれは、過剰な胃液が、胃自体を消化し腐蝕してゆく作用に譬えたほうが、適切かとも思われる。」(p.10) 論理的には若干の飛躍を含んでいますが、しかし、理解できない話ではありません。三島によれば、言葉は、現実と私たちの悟性の間を媒介する、つまり、二者の間に存するものです。しかし言葉はその一端、現実の側を腐蝕してしまう。すると、言葉は自らの住処を形成していた二者のうちの一方を破壊してしまうことになる。言葉はこのとき、自らの安住の地を破壊し、不安定になってしまう。そのように考えれば筋は通ります。このとき、腐蝕された・観念的な姿をしていたところの肉体とは、まさに、言葉それ自体を腐蝕してしまう可能性そのものです。したがってここには肉体と言葉の第一の対立があるのだと理解することができます。 一方で、本作にはもう一つの肉体が登場することにも注意しなくてはいけません。それは、2つ先の段落、「私の相反する傾向」のうちの一方に登場します:「一つは、なんとか言葉の全く関与しない領域で現実に出会おうという欲求であった。」(p.11) 言葉の全く関与しない領域で出会う現実。三島において、この意味での現実もまた、肉体の語に結びつけられることになります:「私は言葉の全く関与しない領域にのみ、現実および肉体の存在を公然とみとめ、かくて現実と肉体は私にとってシノニムになり、一種のフェティッシュな興味の対象となった。」(p.11-p.12) ここに、肉体と言葉の第二の対立があるのだと言わねばなりません。 以上をまとめてみると、『太陽と鉄』においては、実のところ、2つの肉体が登場することになります。ひとつは、すでに言葉の内部に入り込んでしまった(或いは腐蝕されてしまった)肉体であり、もうひとつは、言葉の全く関与しない領域に損する肉体です。 これらの区別がいったいこのあとどのように展開されていくのか、注意しながら再び読もうとおもいます。
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