
篠乃崎碧海
@Aomi_rds
2026年8月12日
神様の暇つぶし
千早茜
読み終わった
絶対に好きになってはいけない人、というのがこの世にはいる。既婚者だとか未成年だとかの倫理的に関係を持ってはいけない、という意味ではなく、ただ愛してはいけない、愛したら最後これまでの人生の全てを塗り替えられてしまうような、この先の形すらも定められてしまうような人がいる。出会ってしまったら終わり。そういう意味では悪魔のような存在かもしれない。あるいはただひとりの神様か。
廣瀬全はそういう男である。絶対に好きになってはいけないと恐らく多くの人がすぐに気づく。この物語の主人公である、二十歳の藤子も直感で悟っていただろう。それでも抗えないのがこの男の最低で最高なところだ。父親を喪ったばかりというタイミングも藤子にとっては不運だったかもしれない。
好意とは好奇心かもしれない。この人を暴いてみたい、誰にも見せなかったであろう表情を白日の下に引き摺り出してやりたい。そんな欲望をいくらぶつけたところで相手は薄い笑みを浮かべるばかりだ。それでますますのめり込む。心地良く堕落していく。
しかし廣瀬全と藤子の間には黒々としたファインダーが聳えている。鉄の冷たさを挟んでふたりは互いを自分の神様だと思い、自らの肉体を捧げ合う。そこには性欲という言葉には収まりきらない寂しさが、憧憬が、愛がある。
桜庭一樹『私の男』が好きな人におすすめしたい一冊。あるいは、かつてろくでもない神様を愛したことのある人に。

