chika "台湾漫遊鉄道のふたり" 2026年6月23日

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@koitoya
2026年6月23日
台湾漫遊鉄道のふたり
2026年国際ブッカー賞受賞作。 台湾で講演を行うため招かれた食いしん坊の日本人作家・青山千鶴子と、食や歴史に詳しい謎めいた台湾人通訳・王千鶴の物語。 台湾各地の食文化が描かれておりグルメ小説としても楽しめるが、日本統治下の台湾が舞台である以上、その歴史的背景は切り離せない。ふたりの会話の端々にも植民地支配の影が差している。 特に印象に残ったのは、青山が王に和服を贈ろうとする場面だ。 「「私は土人参であることを受け入れています。そして土人参の姿で生きていくつもりです。でも、私のことを玉だと思ってくださる青山さんは、私に本物の薬用人参の格好をしてほしいのでしょうか?」 (中略) 「和服を着た方がいいと思ってるんじゃない。千鶴ちゃんは長杉でも洋装でもとてもすてきよ。でも和服は、何でも表面しか見ない人たちの目から、千鶴ちゃんを護ってくれるお守りになるでしょう?」 「・・・・・・私には、そんなお守りは必要ないのです」 「千鶴ちゃんは強いから、必要ないのかもしれないわねーでも、千鶴ちゃんを護ってあげたい私の気持ちとして、和服を贈りたいというのも、だめかしら?」」 (p200〜201) 植民地支配はしばしば「現地人を保護し、教育し、文明化するため」という名目によって正当化されてきた。その歴史を踏まえると、「護ってあげたい」という言葉には保護者と被保護者という非対称な関係が潜んでいるように感じられる。(青山は王に対してずっと友人でありたいと好意を示すが王はそれを拒絶している) しかし一方で、青山自身は同化を求めているわけではない。彼女は「和服を着るべきだ」と言っているのではなく、「世間は表面しか見ない。その理不尽な視線から少しでもあなたを守りたい」と考えている。自分を客観的に見れていないがその気持ち自体は純粋な愛情でもある。 興味深いのは、この場面が単純な加害者/被害者の図式では描かれていないことだ。青山は自らの言葉に含まれる権力性に気づいていないし、王もまた青山の愛情を完全には受け取れない。互いに理解しきれないまま、それでも相手を大切に思っている。 植民地という非対称な関係のなかで生まれた親密さと、そのふたりに入り込む権力の影。その危うさと切実さが非常によく描かれていると感じた。 また、この小説には解説やあとがきに関する仕掛けがあり、読者がどこまでを「作品」として読むのかが揺さぶられる構造になっている。子ども向け文学では時折見かける手法だが、大人向け小説でここまで境界を曖昧にした作品はあまり読んだことがない。 そのため刊行後にはSNSなどで批判も起こったようだが、個人的には面白く読めた。
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