
Miyoshi
@miyoshi
2026年8月2日
ファイア・ドーム(上)
辻村深月
読み終わった
悪はいつもわかりやすい形をしているとは限らない。
この人間がこの罪を犯したと明らかならそれを裁けばいい。
でも人は真実を語るとは限らない。
隠す。嘘をつく。虚栄を張る。切り札にする。
そういう、捉えどころのない犯罪者に関わってしまったら、人はどうなるのか。
みんなが事件に縛られている。
25年前に起きた誘拐事件の心無いデマに傷つけられた遺族、まだ何かあると今も調査を続けるベテラン記者、とつぜん姿を消した遺族のひとりである小学生、その光汰朗くんの行方不明後に噛み合わなくなった透真と美冬の関係、社会部を希望していた透真の記者としての立ち位置、何かありそうな星森コーチ、有事に足を引っ張る昨日までは信頼していた鍼灸師や上司、そして犯人。
唯一何にも縛られず、L県という地方都市に新しくやってきた美冬が、ここで起きたかつての事件、そして現在進行形で起きる複数の出来事に絡め取られそうになりながらも抗っていく。
作者はいつも「悪はいる」という前提で小説を書いてくれるからありがたい。昨今、悪役にもそれなりの事情があり、絶対的な悪を創作物の中で見ることは昔より少ない気がする。でも、悪はいる。どうしようもない人間というものは存在する。『凍りのくじら』もそうだった。作者はそこから逃げない。私はその姿勢に共感した。