
愛の戦士な
@kas_za
2026年8月14日

虐殺器官
伊藤計劃
読み終わった
序盤は、虐殺を誘発しているジョン・ポールの追跡にハラハラし、この先どのように展開していくのだろうと期待しながら読み進めた。
しかし物語を読み進めるうちに、本作を最も強く支配している存在は、ジョン・ポールではなく、クラヴィスの母親なのではないかと思うようになった。母という強力な他者――自分の内面や選択に決定的な影響を与える存在――との対峙こそが、本作の根幹にあるように感じる。特殊部隊による作戦やジョン・ポールをめぐる事件も、すべてこの問題から派生しているのではないだろうか。
クラヴィスは、母親の生命維持装置を止めるという決断をしたものの、その責任や罪悪感を十分に引き受けることができていない。すでに亡くなった母は、過去の人物でありながら、彼の現在の思考や行動を縛り続けている。そのため、クラヴィスが命令に従って人を殺す特殊部隊の兵士であることにも意味があるように思える。命令による殺人であれば、自分自身が決断したという感覚や、その責任を曖昧にできるからだ。
世界規模の虐殺を描いた物語の中心に、母親の死をめぐる極めて個人的な罪悪感が置かれていることが印象的だった。クラヴィスはジョン・ポールを追い、虐殺の構造と向き合っているように見えるが、同時に、母親を死なせる決断をした自分自身とも対峙し続けている。国家の命令、虐殺を生み出す言葉、そして母親の死は、いずれも「誰が人の死を選び、その責任を負うのか」という問いによって結ばれているのではないかと感じた。

