umi "春のこわいもの" 2025年4月1日

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@umi0218
2025年4月1日
春のこわいもの
春のこわいもの
川上未映子
(2022年の夏にこの本を読んだときの日記を引っ張り出してみる) ずっと、いまここじゃないどこかに行きたいと考えていて、そう考えないように休日はどこかに出かけていたのに、自宅療養じゃそんなこともできない。することはきっとたくさんあるけれど、そのどれもがやりたいことではなく、自分はいま何をしたら楽しいのだろう、本当は何をしたいんだろうと、欲望がわからなくなっていく。欲のために生きているのに。欲望がわからないなんて、それだけで毎日を過ごす自信がしぼんでしまう。わからない、わからない、ただ以前よりはましなことだけがわかっている。 . . . 「部屋に戻る。あなたを急かすものは何もないのに、居てもたってもいられないような気持ちでベッドに寝転ぶ。永遠に変わることがないような、家具や色やカーテン。あなたの位置から見えるすべて。仰向けになったあなたは電話をつかんで目の前にかざし、他人の彩りあふれる生活の写真や、読むことのできる言葉のつらなりを、際限なく目に入れてゆく。ぜんぶがおなじでぜんぶが違い、ぜんぶが光ってぜんぶが苦しい。全体としての白痴、全体としての盲目、全体としての同意、全体としての加担。あなたが見つめる画面には、知りたいものも読みたいものも、知るべきことも読むべきものも本当はありはしないのに、あなたはどこからも目を逸らすことができないでいる。瞬きするごとに虚しさが滴り落ちていく。目も頭も、毛穴も内臓もいっぱいになりながら、あなたはあなたの足を掴んで逆さに振って、この中にあるもの、溜まったものをすべてかき出して空にして、内側をきれいな布か何かで拭って、もう一度、すべてを最初からやり直せたらいいのにと思う。」 『淋しくなったら電話をかけて』より引用
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