なお "すべての、白いものたちの" 2026年8月15日

なお
なお
@nao_reading51
2026年8月15日
すべての、白いものたちの
すべての、白いものたちの
ハン・ガン,
斎藤真理子
日々の生活の中で、最近もっと繊細に物事を感じられる自分でいたいと思う瞬間があります。そんな時に出会ったのが、ハンガン『すべての、白いものたちの』でした。梶井基次郎の『檸檬』を読んだときに感じた、あの胸が高鳴るような感覚を、久しぶりに思い出させてくれたのです。 『檸檬』の魅力は、ストーリーではなく感覚の描写の鮮やかさにあります。丸善で檸檬を爆弾に見立てる飛躍。日常の些細な物が、光や質感を通して特別な輝きを帯びる瞬間を描いた作品でした。彼の作品への憧れにより、対象そのものより、対象を通して立ち上がる感覚を書く、この文体こそが、自分にとっての文章の理想形になっていっていったのかもしれません。 ハンガンの『すべての、白いものたちの』は、産着・雪・骨・塩など「白いもの」にまつわる短い断章を積み重ねた小説です。明確なストーリーラインを追う小説ではなく、一つひとつの「白」から連想される記憶や感情が、丁寧に、美しく紡がれていきます。読み始めてすぐ、これは梶井基次郎の『檸檬』の感覚だとワクワクしました。 両者の描写力に共通する点は、自分の感情を直接的に書かず、対象と安易に接続しない、洗練された文体です。梶井基次郎は檸檬の重み、冷たさ、匂いを執拗に描写するだけで、主人公の鬱屈も高揚も直接語りません。ハンガンもまた、雪の降り方や布の白さを丹念に描くだけで、その奥にある喪失や祈りには一切触れない。読み手は、質感や光や温度の描写を追ううちに、いつの間にか感情の輪郭を自分で掴んでいる。この「説明しない胆力」こそが、両者に共通するものなのだと思います。 例えばハンガンの「白」は、喪失や記憶といった重いテーマを扱いながらも、驚くほど澄んだ読後感を残します。この抑制された美しさこそが、梶井基次郎の描写力とまさに重なり、読書の喜びを再確認させてくれました。
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