
沙南
@tera_37
2026年8月16日
掌の小説
川端康成
読み終わった
「谷には池が二つあった。下の池は銀を焼き溶かして湛えたように光っているのに、上の池はひっそり山影を沈めて死のような緑が深い。」(『骨拾い』冒頭)
ほかの本と並行しながら、少しずつ嗜んでいた掌編小説集。すべて読み終えてしまうのが勿体無いほどだった。彼の描く世界にずっと身を委ねていたい。
普段、短編集はあまり手にとらない。なぜなら私には集中力というものが欠如している。短編集だと、物語の内側へ没入しきる前にだいたい話が終わって、次へいってしまうから、さみしい。
だけど、川端作品にはそれがない。冒頭一文目から入り込んでしまう。鳥瞰した景色と顕微鏡で覗いたような細部が、ひとつの文章の中に同居しているのが独特で、それを違和なく描ききる筆致こそが、この没入感を生み出す理由のひとつなのだと思う。
すべての物語が一枚の絵画のようであるのに、ひとの呼吸や風の音、虫の声はたしかに聞こえてきて。なんというか、彼は絵を描いても大成したんじゃないかな。
なかでも、無色透明であるはずの動詞(人の行為そのもの)に色を宿す表現には、畏怖すら覚える。たとえば、「黒く黙る」とか。「赤くなる」のように、状態の変化を説明する使い方はよく目にするけれど…すごすぎ。こんな表現は私には思いつきもしない。もはや共感覚そのものの世界なのに、読めば万人がすっと理解できるのもすごい。そういう黙り方、たしかにあるなって納得しちゃう。
しかも、独創的なのに衒いや驕りは見えないし、「どうだ」と見せつける感じもないところがたまらない。その自然さが粋だ〜。
日本語の美と可能性を、純粋に、極限まで突き詰めたひとなんだろうなあ。彼のこの色彩への執着は、いったいどこからくるのだろう。盲目のおじいさんの分まで目を凝らして、世界を隅々まで見つめようとしていたのかな。
【すきな短編メモ】
・日向(川端さん、これって実体験ですか?記憶とともに日向へ連れ出したいなんて…素敵)
・金魚(不穏さと麗しさの調和)
・馬美人(バビジンって読むのがすきすぎて🐎)
・百合(まじすき綺麗すぎ)
・十七歳(あったかくて切ない)
・化粧(作者も解説も不可解って言ってるけど、私は彼女の笑みの理由がわかる気がする)
・かけす(私も爪に白いのができたら、星って呼ぼう)
小川洋子さんの解説には大納得でした…。
正直キモいなってのも何作かあったけど、
美しいので尊敬の方が勝ちます⭐️

