
プールに降る雨
@amewayamanai
2026年8月16日
4 3 2 1
ポール・オースター,
柴田元幸
読み終わった
歴史には明暗さまざまな側面があるにしても現在の日本の状況が楽観視できるような錯覚に陥るくらいアメリカはよくこんな最悪の時代をくぐり抜けて(べつの最悪な)現在に至ったものだと読みながらつくづく思った。そしてこの作品を決定的に特徴づける構造が明らかになってから、小説が書かれることと読まれることについても考えた。
現代アメリカ文学が合衆国の歴史をかくも執拗に語り直す理由が国家のアイデンティティの問題であるならば、それを要請する人びとと解消される不安があるからなのだろう。個人の歴史も同様、偶然によって分岐し続ける世界の中で一度しか経験できず、始まったと同時に終わることを運命づけられている現実の人生も、読書によって他者の人生を生きることを可能にする。じっさいに起こったことも起こらなかったことも、人は何度でも語り直すことができるし、人は繰り返しその中で生き直すことができる。語ることと読む(聞く)ことの絶えざる往還に身を置く中に小説の効用と可能性があるのかもしれない。
“だが世界はもはや、単に崩壊しつつあるばかりか火だるまになっている。問題は、世界が燃えていて火を消す手立てを自分が持っていないとき何をすべきで何をすべきでないかだ。” p.752


