
梔子
@asago_404
2026年8月18日
目立った傷や汚れなし
児玉雨子
読み終わった
休職中でありながら浪費家の夫のいらなくなったものをフリマアプリに出して小遣い稼ぎをする中、せどりサークルに勧誘され、やがて、本来の目的も忘れて〝もののの価値を見定める〟ことへ快楽を覚え──
主人公は夫が捨てようとしているものをフリマアプリに出品しているわけだけど、適応障害で休職中にも関わらず、傷症手当金すら貰わないで貯金を浪費してしまうという決して偉そうなことを言えた立場ではない夫にゴミ漁りだとか貧乏臭いとかほざかれたらそりゃあ不満や憤りを感じるのも当然で、自分のやっていることはおかしいことではないという安心感と、その手の知識がある人達から売れるかどうかを見定める目があると認めてもらいたいという承認欲求、経緯や理由はともあれ同じく売ることに執着した者同士で共有できるものがあるのではないかという居場所探しのような感覚でサークルに入ったっきり抜ける理由が見つからないまま、渦の中に取り込まれてしまったのだろう。
主人公が勧誘されたせどりサークルは、転売ヤーや詐欺ではない、まるで自分たちの行いが慈善活動だとでも言いたいような振る舞いで、縁がないこちらからすればなにが違うのかとは思うが、実際こういう人達はいて、そういう所から買われているのだから需要はあるのだろうし、きっとこの手の人達は、心理学を上手く使って賢く商売できることに酔っている節はあるのだと思う。
時折、描写不足感があるシーンはいくつかあったように思ったけど(純文学に馴染みがない私の読解不足かもしれない)、現代のものやお金に対する価値、引いては人生の価値観を上手く繋ぎ合わせている印象で、面白かった。
多分このご時世、フリマアプリを使ったことがない人って少ないと思うけど、どうして自身がその商品を捨てたり誰かにあげたりせずに売ろうと思ったのか、店から買わないのかという意味を考えずにはいられないような気がする。
𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠𓇠
23ーきっと、拓実は、自分に価値があるかどうかを考えたことがないのだと思う。ある、という前提で生きている。たとえ親や配偶者にとってかけがえのない宝物であっても、他の人にとっては大切に磨かれてきたがらくたなんじゃないかという不安は、彼からあまり感じられない。そういったことを疑ったことがないようで、自分は当然あらゆる他者からうっすらと求められているかえのいない存在として生きている。だけど、お前も私も、ただの会社員だろ。
59ーみんなさ、インフルエンサーも、うちらみたいな一般人も、異常に安いものを必要以上に買いまくりながら、異常に高いブランド物を欲しがっているのって、冷静に考えたらとっても変なことじゃん。
94ーきっとものの方が私たちよりうんと長くこの世に残っていられる。私たちがそんなものに対して優位に立てるのは、価値を与える瞬間だけだ。ものの中で生きて、ものを使って生きて、ものをごみかゴミじゃないかに仕分けて、ものより早く死ぬ。
106ーはるかに高い崖の上から、遠い海の激しい渦を睥睨するように拓実は語る。だけど、拓実のいる場所は崖の上なんかじゃない。また別の渦の中だ。私はメチャカイの渦の中で今ももがいている。消費という行動をしている限り、誰も安全な陸地からその渦を眺めることなんてできない。
108ー追い詰められてから動こうとするのは、能力なり環境なり、価値あるものを持っているか、道を譲られてきた人人の特権なのだ。窮地に立たされた時に誰かが助けてくれることを信じて疑わないから、ギリギリまで追い詰められてから初めて困りだす。仕事ができるわけでも、容姿が優れているわけでもない私は、きっと自分が追い詰められたことに気付いた頃には人知れず落っこちて、そのままおしまい。そうならないようにいつも少しずつ生活を案じて、私の生活という足場がほころばないようにようにしているのだけど、これがコスパ思考として、この思考を禁じられたらあなたのように生きられない私はどうやって生活の収支を合わせればいい?
115ー分からないことはなんでもカオスとだと片付けて、自分は規則の側に立って安心したいだけ。