にっかり青江 "屍人荘の殺人" 2026年8月19日

屍人荘の殺人
屍人荘の殺人
今村昌弘
エンタメの醍醐味と本格ミステリの論理的愉悦の傑作  本作は、斬新なクローズド・サークル・ミステリで、単なる橋の崩落や雪山、孤島などの古典的な閉鎖空間の設定ではなく、「特殊設定」が組み込まれている。これはエンターテインメント作品ではお馴染みの設定で、本格ミステリの文脈で見かけることは稀だ。   本格ミステリを愛する人ほど、最初は邪道だと敬遠したくなるかもしれない。しかし、たとえ斜に構えて読んだとしても、最後にはその面白さに納得させられるはずだ。読む価値は十分にあると思う。  タイトル通り、物語は凄惨な殺人事件を軸に展開される。しかし、本作には殺人事件を霞ませるほどの「上位の大問題」が横たわっているため、「犯人探し」一辺倒にはならなず、全員が疑心暗鬼になって犯人を探すというミステリではお馴染みの展開にはならない 。一見すると相性の悪そうな二つの要素を巧妙に縫い合わせ、一本のミステリとして成立させている手腕には深く唸らされた。これがデビュー作とは信じがたい。  個人的にトリックのいくつかは途中で見抜けたものの、それでも物語の牽引力は衰えることがなかった。エンタメとしてもミステリとしても、高い次元で両立している作品だ。 魅力的なキャラクターたちも物語を盛り上げている。名探偵と助手、そしてライバル探偵。巻頭の登場人物一覧を見て「把握しきれるだろうか」と不安を覚えたが、そんな心配は杞憂だった。物語を追うごとに、彼らが個性という名の輪郭をはっきりと浮かび上がらせてくれる。  キャラクターの魅力を存分に堪能した今、ぜひ続編も読んでみたい。
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