
和月
@wanotsuki
2026年8月20日
ゾンビ回収婦
小砂川チト
読み終わった
一気読みだった。
難解さと面白さが天秤で釣り合ってる感じの作品。面白さに少し重心が傾いていて、好ましい一冊だった。
純文学の放つ言葉の濁流に身を委ねていると、洗濯機の中に居るみたい。頭がこんがらがって目が回りそうなのに、同時に外で染み込んだ汚れが清められて、心地よい。
人間とAI、愛憎、公私、仮想と現実、巧遅と拙速。様々な二項を行ったり来たりしながら、わたしとあなたたちについて考える。一度読むだけでは噛み砕けない文章が好き。
「わからない」の渦に飲み込まれそうになるのに、どうして私の心がわかるんだろう?と思える一瞬が確かに存在している。
クマ先生とのメンテナンス・デー、アラスカの最期、彼の名前の由来…数えるとキリがないくらい、断片の言葉達が胸に突き刺さる。
人間として生きていく上で、行動指針に「愛されたい」という生存本能が宿るのは至極当然だ。「私」を支配する上位の存在に認められたい、生きていることを肯定されたい。それは、人が死ぬまで抱え続ける衝動なのだろう。
だが、その為にはミスなく改善向上進歩を続けることが正しいのか?まるでAIのように?AIに仕事を奪われた場合はどうすればいい?急に掌返しで不完全さが称賛の的になるのか?
利便性が著しく前進する世界で、これまでの指針を喪った現代人は身体を引き摺り歩くゾンビのように、心を彷徨わせている。
本作は、彷徨い破壊され散らばったゾンビの身体達を回収する中で、愛されたい不完全な人間たちの心の欠片も拾い集めてくれているように感じる。
短編ながら読み応えがあり、己の自意識を見つめ直すことができる作品だった。




