雨垂 "仁義なきキリスト教史 (ちく..." 2026年8月20日

雨垂
@amadare__
2026年8月20日
仁義なきキリスト教史 (ちくま文庫)
キリスト教の歴史をヤクザ風に書くというなんともスレスレな作品。 だけど単なるコメディではなく、歴史や派閥争いの話が分かりやすい。もちろん誇張はあるが、章ごとに作者解説が挟まり、何を元にしてどこを誇張にしたかを書いてくれている。 第一章・第二章は福音書の範囲……つまりイエスが伝道を始めてから処刑されてその少し後ぐらいまでの話なのだが、ヤクザだのなんだの言っている割にイエスのやっていることはほとんど病人見舞いと口論であり全然ヤクザという気はせず、そこのギャップが笑える。なお、復活の描写はカットされ、処刑後の弟子たちの様子は、親分を処刑したのになぜか組の残党がむしろ活気づいているという描写で処理されている。 第三章・第四章は初期教会の話であり、使徒言行録やパウロの手紙やらが中心なのだが、上納金だの俗っぽい単語はあるものの、話の内容としてはイカれ野郎のパウロが初期教会で良くも悪くも能力をフルに使って暴れ倒す話であり、これもあんまりヤクザという気はしない。第二章の作者解説でのパウロ評が面白い。 第五章以降はキリスト教がどんどん組織としてでっかくなっていき、派閥争いや王族・貴族との権力闘争や腐敗などきな臭い話になっていて、ヤクザにしては規模がでかすぎるのが面白いが、これまでに比べると大分ヤクザらしい俗っぽさだ。 キリスト教史の話なので、本編はキリスト以降〜〜第二次世界大戦前までの大体1900年ちょっとの話がさらっと書かれているだけたが、おまけとして出エジプト記のヤクザ版があり、これが面白い! 新訳とは比にならないぐらい野蛮で、人が死にすぎている。モーセ可哀想。ヤハウェ大親分も、所業はかなり残酷なのだが、何度も約束を破られて人間不信になっていく様子を見せられると、だんだん可哀想になってくる。こうなってくると新約より旧約の方がヤクザナイズドがハマっている気もするのでぜひ読みたいのだが、ユダヤ教が元々選民思想的な宗教なのに対しキリスト教は隣人愛の宗教であるにも関わらず俗な面があるというのがこの面白さに一役買っている気もするので難しいところ。 あとがきでは「キリスト教の俗的な側面を強調するために「やくざ」という見立てを用いた。」とある。お題目としては愛を唱えるキリスト教が多民族の排斥やら腐敗やら権力争いを起こしているのが、不謹慎ではあるが、面白いからこそ着目する意味があるのであって、俗的であることがキリスト教の特徴というわけではない(当たり前すぎる話だが)。むしろほとんどの人間は俗的であり、イエス・キリストという一人の人物が特異点だと言える。福音書の中でも暴力的な話はあるし本書も見逃さずにそこを拾っている(イチジクの木や神殿での騒ぎなど)が、逆に言えばせいぜいそのくらいで、後はひたすら説話と治療だ。 過剰に俗的に表現することにより、俗的でない部分に強く目がいく……。娯楽作品としても面白いが、イエス・キリストの解釈を深めるためとしても中々楽しい一冊だった。
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