
鈍獣
@whale_in_da_room
2026年8月24日

大阪 (河出文庫)
岸政彦,
柴崎友香
読んでる
親の仕事で転勤族だった自分にはとてもよく理解できる、すこし歪な郷愁、〈地元〉への憧れ
“ 市内でも郊外でも、大阪の、流動性の少ない、昔から住んでいるひとばかりの街に生まれ育って、そこで根をおろして暮らしたかったと思う。中学校の同級生の女子がやっているお好み焼き屋かスナックで、安酒を飲みたかったと思う。二十歳そこそこで結婚して、たくさん子を育て、休日はミニバンかSUVで、白浜あたりに出かけたかったと思う。子どもの頃に通った駄菓子屋のおばちゃんも歳をとって店を閉め、そのシャッターを見て懐かしい気持ちになりたかったと思う。自分でもどこかの場所を借りて飲食業に手を出し、失敗したかったと思う。ちょっと恐くて鬱陶しいけど悪いひとじゃない先輩とかと、たまに銭湯で出会いたかったと思う。同級生と同じ年に子どもをつくって、子ども同士も同級生になればよかったのにと思う。
でもたぶん、大阪で生まれ育って、ここが地元だったら、私は東京あたりの、別の街に逃げていただろう。私は十八で名古屋から脱出して、大阪に来た。私は大阪に、「出て来た」のだ。もし大阪で生まれ育ったとしても、その地元はおそらく、女たちが殴られ、泣かされ、働かされ、ただ我慢を強いられる街だったに違いないし、すこし「進んだ」考え方を持った子どもや、塾にも行かずにただ家にこもって本を読んでいるような子どもは、からかわれ、罵られ、仲間外れになるような街だったに違いない。”
