
kni
@hcaebehtel
2026年8月26日
ギリシャ語の時間
ハン・ガン,
斎藤真理子
読んでる
ながいながい絹織物を眺めているような、繊細すぎて神経質にもみえる細工を目で呑み込んでいるような、そういう気持ちになる物語と文章。早くその全貌を明かしたいけれど、読み続けてもいたい。
今読んだ中で、特に好きだった文章。
「恋に落ちるのは幽霊に惑わされることに似ていると、私は初めて知りました。」
「明け方に目を覚ます前、あなたの顔がすでにまぶたの中に映り込んでいましたから。まぶたを開けるとあなたが天井に、洋服ダンスに、窓ガラスに、通りに、遠い空に、一瞬にして居場所を変えてちらつくのです。どんな死者の魂も、あれほど執拗にはなれはしないはず。あの夏の夜、机の横の小さな鏡の中には(中略)私の上半身が映っていましたが、そこにあなたの顔がゆらりと重なってくる一瞬を私は見逃しませんでした。」(p49-50)
BEAT CRUSADERSの「GHOST」という曲が好きだ。軽快ながらもどこか切実で、あまくせつないメロディのなかで歌われるサビの一節目がなにより。この場面を読んでいて、その詞のことを思い出した。
「I'm in love with a ghost 」
(幽霊と恋に落ちる)
「It's a beautiful thing in the world」
(なんて素敵な出来事なんだろう)
──幽霊のあの子と手を取り合って踊る。世界でふたりだけ、周りは何にも見えなくなっても。
生きている人間のきみが、自分に着いて回る幽霊のように、なんども繰り返し眼の裏に現れる。それもきっと、あまく、くるしく、でも酷くしあわせなことだろうな、と思う。

