のーとみ "キネマ探偵カレイドミステリー" 2025年4月7日

のーとみ
@notomi
2025年4月7日
キネマ探偵カレイドミステリー
斜線堂有紀「キネマ探偵カレイドミステリー 会縁奇縁のリエナクトメント」読んだ。斜線堂有紀のデビュー作「キネマ探偵カレイドミステリー」全3巻の7年半ぶりの続編にして、ひとつの物語の終わりというか、物語全体を通して描かれていた謎は全て解かれて、引きこもりだった嗄井戸君は外に出られるようになって、ミステリとしては完結していたけれど、この小説のもう一つのテーマでもある大学生小説という部分について、きちんと終わらせるために書かれたのが、多分、この本なのだと思う。この本の発売記念サイン会&ミニトークで作者本人も「前3作は、丸ごと大学時代に書いたもの」と言って、更に「登場する映画は全部、卒論のために集めた資料の中にあった映画で、どうせなら全部小説のネタにしちゃえと思った」と言っていた。本当に斜線堂有紀の大学時代をパッケージにして、そこにミステリをぶち込んだ作品だったわけだ。 でも、まだ作中の名探偵、嗄井戸君も助手の奈緒崎君も、まだ大学在学中で、彼らがきちんと未来に向き合うためには、もうひとつ物語が必要になる。この連作短編集の最後の作品「会縁奇縁のリエナクトメント」は、「ずっといつか世に出そうと原型の原稿を大事にとっておいた」とあとがきに書かれていて、このモラトリアムの終わりを見事にハッピーエンドとして書いた物語が世に出ないと、斜線堂さん自身のモラトリアムの時間が終わらなかったのだ。そういう小説だから、その肌触りは、凄く栗本薫「ぼくらの気持ち」に似ている。また、それは映画版「ネムルバカ」のようでもあるし、もし完結していたら橋本治「人工島戦記」だったり、木原敏江「摩利と新吾」の後半だったり、青崎有吾「ノッキンオン・ロックドドア」だったりといった、大学生小説とでも名付けたい、ひとつのジャンルがあるんじゃないかという気にさせる。いわゆる学園ものは、主に中高を舞台にするから、その環境自体をいくらでも特殊な設定にできるし、その中での人間関係もスクールカーストみたいに一般化出来るから、閉鎖空間としてドラマが作れる。でも、大学生は外と簡単に繋がれるから、特殊設定や極端な人間関係が描きにくい分、物語が等身大にならざるを得ない。そうなるとテーマは時間と決断になって、何かを決める、何かを終わらせる、何かを始める物語を書くのにとても適した舞台になる。逆に言えば、決定的に物語の終わりを書かなければならないジャンルになるから、ラノベや長編マンガには向かない。まあ、大学教授や職員を主人公にすれば、終わらないミステリを書けるんだけど(ex 探偵ガリレオ)。 もちろん、キネマ探偵シリーズも、この先、探偵になった嗄井戸君とカメラマンになった奈緒崎君のストーリーは書けると思うけど、それはもう決定的に違う物語だ。その辺を見事に書き分けてるのが西尾維新「化物語」シリーズで、だから、モンスター・シリーズ以前と以後ではハッキリ違う物語になってる。大学時代に物語を終わらせられなかったツケを払う物語が青崎有吾「ノッキンオン・ロックドドア」だったり。そう考えると、斜線堂さんのこの決着のつけ方は、それがデビュー作だったという事情もあったとは思うけど、大学生小説の金字塔と言っていいくらいの見事さだ。タイトルもリエナクトメント(再演)と、皮肉を効かせつつ泣かせたり。ほんと上手いなあ。そういえば、この作品、斜線堂ミステリとしては珍しい、ある種のコージー・ミステリじゃないか?
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