
和月
@wanotsuki
2026年8月29日
見えるか保己一
蝉谷めぐ実
読み終わった
めちゃくちゃ好き!!!!!
第1章から心を掴まれて、中盤で少しグッと感情を抉られる部分もありつつ、最後の章とラスト一文に込められた思いの力強さに唸らされて、本を閉じてからも暫く余韻に浸ってしまった。
とてつもなく良かった。
ひとつひとつの言葉が心に刻まれる、名作。
実在の人物を主体としていると聞いて、伝記の要素もあるのかなと思いながら読んでいたけれど、実際はかなり史実の隙間に独自の要素が盛り込まれているようで、小説としての魅力に溢れていた。
本作は、他人の為人を己の都合に合わせて受けとめる人間の様を緻密に描く。
章立てには二つの意味にとれる言葉が用いられている。主人公の保己一と、保己一の周囲の人物で視点を切り替える手法で、物事の真意を定めることの難しさを読者に体感させてくれる。
この作品全体の構成がべらぼうに上手い。読んでいて気持ちが良いし、逆にグサッとダメージを受ける場面もある。一筋縄ではいかない人間の在り方を、物語に丁寧に落とし込んでいる。
人が絶望の淵から一歩ずつ上り詰める中で、その様に傾倒する人、憎悪する人、感化される人、様々な人間模様が描かれる。
エネルギーの渦に巻き込まれるように、弾き飛ばされるように、保己一の周りを囲む人もいれば去っていく人もいる。
現代と同じだ。アイドルや俳優、権威ある医者や政治家等、注目となる存在はいつだって偶像としての力を伴う。他者を通して語られる形は崇拝されることも破壊されることもある。
『見えるか保己一』は、歴史小説として語り直される塙保己一の人生の物語である。
そして、見る-見られるの構図の中で手前勝手に生み出される暴力的な感情の、憎らしさと愛おしさを痛切に書き綴った作品なのだと感じた。
盲も目明きも関係なく、人は人の心なんて本当は見えない。分からないからこそ、自分の感じた今を切り取って、感情を抱えて、生きていくしかない。現代にも通ずる感覚を沢山再認識させてくれる小説だった。出会えて本当に良かった。



