🐧 "春のこわいもの" 2025年4月5日

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@penguiiiiin_04
2025年4月5日
春のこわいもの
春のこわいもの
川上未映子
『青かける青』  この本に出版日として印字されている2022年の2月25日は、それは自分の国公立大学入試の日であり、ロシアがウクライナに侵攻した日の翌日。それからすぐにこの本を買って、みんなが体育館で高校の卒業式をしているときに、退学する自分は一人で教室で読んでいた。  当時は思うように動かず、寝ても寝ても疲れが取れない身体にもどかしさを覚えていた。それなのに当時の自分は『青かける青』に特段の共感を覚えたわけではなかったような気がする。今読み返すとこの話の中に出てくる彼女は、病態もまさしく自分に近く、また当時の自分も彼女のように、周囲が急激に変わってしまう中ぽつねんと一人置き去りにされる感覚を強く感じていたはずだ。  もしかしたら、当時の自分の時間に対する感覚では、少し難しかった部分があるのかもしれない。ただあの日溜りの中にあった教室には、もう戻ることはできないし、できないにもかかわらず、痛いまでにヒリヒリするような可能性と不安が、あの教室のそこかしこにまだへばりついている。  あれから、三年間が過ぎ、自分のいる場所も、自分の周りにいる人も、自分の考え方も随分と変わってしまった。それでも春になるたびに、あの教室の中にいた自分を思い出す。ロシアとウクライナはまだ戦争を続けている。今年も桜は淡く咲いて、儚げに散る。期待と不安の緊張が、春をこうも美しくするのだろう。 「ねえ、戻れない場所がいっせいに咲くときが、世界にはあるね。ずっと、ずっと元気でいてください。お元気で。」
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