
itshin
@it_shine
2026年8月31日
読み終わった
最後まで読み切って、読む前の自分には戻れなくなってしまった。
反戦小説というほど主張しているわけではないけれど、前作『世界泥棒』に続き、戦争が出てきて、人を愛するということが語られる。人は死ぬし、倫理的に難しいことも起こる。魂とか、幽霊とか、死体の山とか。
400p中改行が10回もないと思う。人称が解ける、話者が一文の中で交代し続ける、数ページにわたって読点が出てこない。
それでも読んでしまう。読み進めてしまう。面白かった。とても。この小説でしか味わえない世界がある。考えがある。経験がある。
> きみはただきみの友達を軽蔑しているだけだ、きみはきみの友達のやさしさを本質的に許してはいないんだ、きみはおなじように僕たちをも軽蔑している、そして、ほかのひとを軽蔑しようとしている自分をより本質的に軽蔑したくないためだけにきみは自分自身をも軽蔑しているんだ、僕はきみを見てきみと話をしているとこころがすかすかになっていくような気がするよ、きみがほかのすべてのにんげんをきらい、ほかのすべてのにんげんを軽蔑するのはきみの勝手だ、けれど、そうであるならきみはきみのことをもっと恥じたほうがいい、きみが持っているつめたさや軽蔑をあらわにしてほかのひとにそれをやさしいと思わせてもそう思ってくれたひとをまた軽蔑することしかできない、ねえ、他人の価値観ややさしさを軽蔑してなにがどうなるというんだろう、それできみが救済されるわけではない、そんな程度のことがきみの価値観を肯定するわけでもない、そもそも、価値観は肯定されるようなものですらない、きみのそれはただ他人を軽蔑したいというきみの欲望にすぎない、きみはだれかを愛したいと思っているかもしれない、でも、きみが思っているきみがだれかを愛したいということはそのだれかを傷つけ軽蔑したいということとなにもちがいはない、きみはほんとうにだれも愛してはいない、そしてだれも愛することができずにただ傷つけるだけの自分を軽蔑することできみはきみを肯定しているだけだ、きみは本当はだれかにしんから軽蔑されることがこわくてその前にあらかじめ自分で自分を軽蔑しているんだ、きみがきみを軽蔑するのであればきみはそれをたやすくうけいれることができる、回復することが約束された傷によってきみはきみのことを許し、いたわることができる、たくさんのつらい時間をすごしてきたと思い込んできみはそのほかの時間を気持ちよく生きることができる、それでもきみはきみが本質的にだれかに軽蔑される可能性をあざとくのこしている、……、僕はそのありかたを見ていると吐き気がする、きみがやっていることを見ているとこころが狂ってしまいそうになる、きみと話をしていると僕はうちすてられた石ころと話をしているような気持ちになってしまう、僕はきみを気持ちがわるいと思う、ねえ、きみの救済なんかではほかのだれも救えはしないよ、きみの友達はだれもきみのことなんか愛してはいない、おなじように、僕たちもだれもきみのことなんか愛していない、それでも、きみはただそのことだけできみの価値観が肯定されたとかんちがいをしてしまうんだ、きみはそれがどういうたぐいの気持ちわるさなのか、それすらもわかっていないんだ、……、兵士が死ぬ間際、兵士の背中のうらがわ、花の層のしたに埋もれた女の子がかすかな声で兵士に問いかけた、ねえ、あなたたちはほんとうはなにをしにわたしたちの教室にやってきたんだろう、兵士は答えた、僕たちは愛について僕たちが知らないすべてのことをきみたちにつたえるためにやってきたんだ。
p344-p346
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> なあ、たとえどんなにばかみたいでも、俺はおまえの愛らしい顔で俺を許してほしかったんだよ、けっきょくのところ、俺はおまえを愛したかったわけじゃないんだ、俺はおまえに愛されたかったんだよ、そして、俺はおまえに愛されるということを俺がおまえを愛しているということだと名づけたかっただけなんだ、でも、それはそれだけのことだ、俺はおまえをまちがえたやりかたで愛してしまった。
(p356)
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> どうしてそんなこと言うんだろう、だれかを愛するということは全てまちがったありかたなのに。そんなことはないよ、だれかを愛すると言うことはそれだけで価値があるんだ。わかっているよ、それはわかっているんだ、でも、ねえ、愛すると言うことはとても価値があってとてもただしいことなのかもしれない、けれど、たとえそうであっても、わたしたちがだれかを愛そうとするときその愛しかたはかならずまちがってしまうんだよ、ねえ、隆春くん、わかるかな、わたしたちはだれかを愛する時にそれがただそれだけで価値があったりただそれだけでただしいというありかたで愛するやりかたをまだ知らないんだよ、いつか、何十億年か後に私たちはそれを知ることができるかもしれない、……、でも、いまのにんげんにはそんなありかたは到来していないんだよ。
(p356-p357)
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