
橘海月
@amaretto319
2026年8月30日
神都の証人
大門剛明
読み終わった
#揺さぶられる
昭和18年戦争の最中、三重県で起こった殺人事件。その犯人とされ死刑判決が出た谷口は冤罪を訴えた。弁護士吾妻は娘波子との偶然の出会いから、谷口を救うべく奔走するも召集により戦地へゆき帰らぬ人となる。吾妻の遺志を継ぎ検事本郷、弁護士伊藤と語り手を変え、80年に渡る再審請求とその高き壁に挑む壮大な物語。
手に取るとずっしりと分厚い本は、そのまま80年の重みだった。伊勢神宮の遷宮で20年ごとに行われるお木曳、事件の後何度もお木曳の場面が描かれ、その度にまだ叶わぬ再審の年月が重なる。あと少しと希望が見えた瞬間、思わぬ人の死や時代の気まぐれに翻弄され振り出しに戻る。本郷の第二部が特に印象的で切なかった。
これほどの登場人物を描き切るのは、相当大変だったろうなと思う。死刑囚谷口や波子だけでなく、彼らを取り巻くほんのわずかな関わりしかもたない人々まで、その時代確かにいたと思わせる筆力は圧巻だった。人間の業や悲願だけでなく、単なるハッピーエンドではない、どことなく虚しさを感じる結末まで見事に描ききっていた。


