無限の上機嫌! "緩やかさ" 2025年4月4日

緩やかさ
緩やかさ
ミラン・クンデラ,
西永良成
 昨日につづき、夜はネイボの読書室にきた。『緩やかさ』は、あまりにおもしろく、三日ほどで読みおわってしまった。  クンデラは、この小説の中で緩やかさに速さを対置させている。速さは忘却とむすびつき、緩やかさは記憶とむすびつく。 〝緩やかさと記憶、速さと忘却のあいだには、ひそかな関係がある。ある男が道を歩いているという、これ以上ないほど平凡な状況を想起してみよう。突然、彼はなにかを思い出そうとするが、思い出せない。そのとき、彼は機械的に足取りを緩める。逆に、経験したばかりの辛い事故を忘れようとする者は、時間的にはまだあまりにも近すぎるものから急いで遠ざかりたいとでもいうように、知らぬ間に歩調を速める。〟 〝私たちの時代は速さの魔力に身を任せているので、いとも簡単に自己を忘却してしまう、と。だが私はその命題を逆にして、こう言いたい。私たちの時代は忘却の願望にとりつかれているのであり、その願望を充たすためにこそ、速さの魔力に身を委ねるのだ、と。〟 〝なぜ、緩やかさの快楽が消えさってしまったのだろうか?〟  物語は、いまはホテルとしてつかわれている、あるフランスの古城を舞台に展開する。そこにあつまった個性的な登場人物たちの群像劇がたのしくて仕方ない。彼らの純粋さ、ばかばかしさ、情けなさが、あまりに人間らしく感じられるのだった。
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