しがない "生物から見た世界" 2026年9月2日

しがない
しがない
@ooe
2026年9月2日
生物から見た世界
生物から見た世界
クリサート,
ユクスキュル,
日高敏隆
古典ではあるが、古典的名著とは思わなかった。だが思考の転換を促す一冊としての価値は大いにあった。当時の科学や人間中心主義に、生物の視点からメスを入れた革新的なトピックである。それは今の時代でも、そういったステレオタイプの人種にはストレートで突き刺さるだろう。 故に古典として残っている。 この本のメインは「環世界」の話である。 要するに「主観は人間だけのものではなく生物にもあるんだよ」ということ。 今までの科学では、生物は一匹〃〃ではなく種という塊であり、それが一括りに客観として語られていた。しかし、生物の一匹〃〃に独自の主観があることを本書では説法している。この本のおもしろいところはそこにあり、主観を排して客観をメインにしているはずの科学の場に「主観」というもの改めて持ち出してくるのである。しかもそれが生物学という”科学”を基にしているのがまた興味深い。 つまりその試みは、科学というデータの集積物から生物の命を取り戻す試みでもある。それは簡潔に言うならば、スクラップ工場の丸まった鉄屑から50年もののロールスロイスを復活させるようなものなのだ。 それによって科学の基となる客観の在り方が改めて問われる。実験動物となるモルモットも一匹〃〃が生物として「生きている」のだ。 個人的に特に好奇心を燻られたのはダニの話だ。 ダニは匂いに反応し、その匂い目掛けて飛びつく。それ自体が機械的反応を思わせるのだが、ここで自分が思ったのは、人間も五感を通じ特に目で物を認識する、そしてそれに反応する、つまり、事象を認識し反応するという点では「ダニも人間も相違がない」ということだ。ただ人間と大きく違うのはダニには目が見えていないということである。しかし、それは逆説的に、それぞれの生物に独自の主観「環世界」が存在するということを証明する。 それによって、生物それぞれに千差はないということが言えるだろう。人種の垣根に優劣がないと人類学から提唱したのはレヴィ=ストロースであるが、生物学の目線からそれを提唱しているのが本著である。 なるほど、そう考えると本著が古典的名著と位置づけられるのは納得なのである。 しかし、だからといってレヴィ=ストロース『悲しき熱帯』を読むかと言ったら別問題なわけで。 そういう点で自分にとっては古典的名著と言えず、あくまで本著は古典としての位置付けなのである。 岩波青文庫の中では”超”読みやすい部類ではないだろうか。
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