のば "残像に口紅を" 2026年9月3日

のば
のば
@56_56mm
2026年9月3日
残像に口紅を
残像に口紅を
筒井康隆
ことばがそれをふちどるかんかく。 言葉が、それを、縁取る、感覚。 消えていくと、ぼやけていく。 昨日まで意識せずとも明確であった全てが、途端に朧気になる。 雲隠れした月と同じ。雲を退かしてやりたいが、それを掴むだけの器量がない。 あ、な、た。 き、み。 わ、た、し。す、き。き、ら、い。 わたしを縁取る言葉はどこにいったのか。 それでもまだそこにいた、それがわかるから、落涙する。 いや、わかっていたつもりだった。わたしの中のわたしだけがわかるわたしのための言葉で、かけがえのないあなたを縁どっていたから、その輪郭がかすむ時、あなたの腕を力強く握って、離さないようにすることができない。 「言葉にしようとさえしなければ、この世の事象はみなもとのままの姿で存在する。」 確かな指摘だ。 だからあなたは消えてしまったのか。わたしが、あなたを言葉に閉じ込めようとしたから。 しかし、わたしのその営みが、なぜかわたしの中では尊いと感じてしまうため、今でも描き続ける手が止まらない。 そっと線ををなぞるつもりが、あざにしてしまったあなたの身体に、手を当てる。 あ、い。
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