
DN/HP
@DN_HP
2026年9月3日

夕陽の河岸(新潮文庫)
安岡章太郎
裏表紙の文章で気になっていた「入隊直前の夜道で出くわしたシェパード」の話は「犬」というズバリなタイトルで、読んでみたら予想通りとても大好きな一編になった。
病により犬と暮らすことを諦めた日々で思い出す、戦時中、徴兵を数ヶ月後に控えた日の深夜、渋谷から代田への道のりで唐突に出会う真っ黒なシェパード。彼と連れ立って歩いた数十分。改めて湧き上がる犬への思い。ああ。
わたしも幼い頃に一緒に暮らしていた茶色いダックスフントのことを思い出す。ある日の彼と散歩した数十分のことは何故かよく覚えている。今日この本を買った古本屋まで歩いた道のりも犬と、出来ることなら彼と一緒だったら、と想像してみる。少し泣いてしまうかもしれない。
「いまも私は、散歩にだけは毎日のように出掛けるが、犬のいない散歩は間の抜けたものだ。最初のうちは裸で歩いているような心持になった。現在はそれにも慣れて、一人で歩くのもいいものだと思ったりもする。ただ、どうかすると私は無意識のうちに立ちどまり、後ろを振りかえる。勿論、そこには何もいない。しかし私は、ことさら口の中で呼びかけてみる。(おーい、何処へ行った、早くこいよ……)」
わたしもたまの散歩の途中に立ち止まり、口の中で彼の名前を呼びかけながら、気を取られていた道端の草からこちらに顔を向けて、少し太めの身体を揺らしながら短い足で懸命にこちらに向かってくる「アルフレッド」のことを、愛おしさと敬意を持って想像したい。少し泣きたい。









