
和月
@wanotsuki
2026年9月3日
エピクロスの処方箋
夏川草介
読み終わった
雄町哲郎シリーズ第2弾。前作に引き続きとても良かった!20年以上医療に携わり、小説家として活躍する夏川先生だからこそ、紡ぎ出される言葉には重みと深みがある。
表題のとおり、処方箋のような物語だった。
『スピノザの診療室』の続編ではあるが単体としても楽しめる作品となっており、構成も含めて心遣いが奥ゆかしい。勿論、続きを楽しみにしていた読者としても満足度の高いお話となっている。
本作は公式サイトの紹介にある通り、衝撃的な展開や権力闘争は無く、現実に即した医療の現場を淡々と描いている。その筆致の真摯さ、文章の温度が素晴らしい。
押し付けがましさ等一切無く、適度な自他境界がありながら、自分なりの哲学を模索して働くマチ先生の姿を見ていると、勇気と優しさと希望を分け与えてもらったように思える。
社会人として働いていると、いつの間にか資本主義にのまれている自分がいる。利益優先、結果重視。そうした競争社会に疲れてくると、次はセルフケア、自分を大切にする「ご自愛」にシフトチェンジしていく。
無論それらが悪いとは思わない。社会を前進させていくにはどちらも必要な考え方だ。ただ、そこを追求するあまり切捨てられそうになっているものは無いだろうか。
本作では、哲学と医療現場を基に、良いとされている行動の別側面について警鐘を鳴らしている。自己の快楽を追い求めることの危うさを見つめ直し、「幸福」の在処を考える。答えを探すのは難しく時間がかかる問いだと思う。だが、この物語に出会って、考えることの大切さを再認識できた。
印象に残ったのが、中将先生の男女平等についての台詞。私がなんとなく、働き方における男女平等について抱いていたモヤモヤが言語化されていて、とても腑に落ちた。
役割分担と不平等は全く別物。大切な心のお守りになった。
京都のお菓子が沢山出てきて、どれも美味しそう。今度京都に行く予定があるので、マチ先生が食べた甘味を巡る計画も立てたい!

