和月 "どれか一つは嘘" 2026年9月6日

和月
和月
@wanotsuki
2026年9月6日
どれか一つは嘘
どれか一つは嘘
キム・エラン,
古川綾子
霞みがかってみえる景色の中で、息苦しさを抱えながらも一歩ずつ進み続ける若者達のお話。 物語の時系列に少し戸惑うこともあるけど、時折現れる澄み切った言葉にハッとさせられる。 身近な存在の“死”の前後、始まりの中にある終わりと、終わりの中にある始まりについて繊細に描かれている。とても良かった。 主体を担う3人の男女は、同じ学校のクラスメイト。彼らは身近な人を喪い、吐き出せない傷を抱えながら生きている。3人はやがて、創作を通して少しずつ交錯していく。 ジウの描く漫画が鍵となっていくのだが、いくつかの場面で登場する授業風景も印象的だった。 一つの嘘を織りまぜる自己紹介、単語を組み合わせて作る詩。学びの中で、自らの心情と照らし合わせて、誰にも分からないように吐露したり、目が合った同級生とそっと感情を共有する。 学生の頃、たしかにそんな場面があったかもしれない。密やかな連帯がさざ波のように影響しあい、彼らの日々に僅かな変化が生まれる。その精緻な表現がとても美しく、読み応えがあった。 また、本作は血縁とは異なる愛を描いている。 犬のムンチやとかげのウンチク等、種族は違えど主人公達が大切に愛する存在もいれば、血の繋がりがあっても分かり合えない人もいる。 私がこれまでに出会った韓国の文学・映画の多くは、血縁からなる家族愛が強固に描かれていた。しかし、この物語では家族間で生じる歪みを描き、現代に即した新しい愛の形を示している。 その変化が新鮮であると共に、共感できる眼差しを感じて嬉しかった。 金愛爛氏の作品は今回初めて読んだ。静謐なのに熱を帯びた文章がとても好ましかった。邦訳されている他の作品についてももっと読んでみたい。
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