
和月
@wanotsuki
2026年9月7日
カフネ
阿部暁子
読み終わった
ようやく読めた。いくつもの心に残る言葉があって、本を閉じてから余韻に浸る時間を作りたくなる作品。素晴らしかった。
鋭利な刃物で穿かれるような文章は記憶に刻まれやすい。けれど私は、耐え難い苦味とかけがえの無い幸福が溶け合い、最後には希望を持てるような作品が好きなのだと思う。
まさに『カフネ』はそんな作品だった。
弟を亡くした女性と、弟の元恋人。喪失をきっかけに結ばれた交流は、美味しそうな食事で彩られている。作中でせつなが作る料理は、どれも鮮やかな色と豊かな香りが文章の端々から漂ってくる。薫子の言葉を借りると、さながら魔法使いのようだ。疲弊しきった人々に振舞われる食べ物を見ていると、食が生み出す活力をひしひしと感じる。八方塞がりで蹲っている人間にとって、それがほんのひと時であったとしても、助けたいという思いと共に与えられたエネルギーはぴかぴかと輝いている。
せつなの料理には、仏頂面に隠された彼女の細やかな気遣いと誠実さがある。その一つ一つに気付き、相手の思いを生真面目に拾いあげていく薫子もまた、とても真摯な性格をしている。この2人の歯に衣着せぬやり取りが爽快で、読んでいてとても楽しい。
形容しがたい間柄が変化していく様に目が離せなくなる。
年齢や性別や生い立ちの枠組みを越えて、苦しみを分かち合い一緒にいたいと思える相手がいること。それは紛れもなく愛だ。
この作品には様々な愛が描かれていて、それは時として相手を幸福にさせ、相手を縛り付ける。
相手の思いを聞いて、自らの思いを話すこと。口にするのは簡単だけど、実行するのは非常に難しい。見栄やプライドが邪魔したり、相手から嫌われるのがこわくて逃げてしまう。
だけど、怖がりながらでもいい。衝突したっていい。それでも手を伸ばし合って、目と目を合わせて対話する。それが、お互いの間にある「愛」を守り育む一番の方法なのだと思う。
『カフネ』はきっと、読み直す度にそのことを思い出させてくれる。
何度も読み返したい大切な作品になった。






