
ケイ
@flyingkei
2026年9月8日
二月のつぎに七月が
堀江敏幸
読んでる
149〜189ページ
阿見さんが思い巡らす珠算塾の大松さんの語りの記憶。戦時中の過酷な経験が、決して具体的な言葉にはならぬまま、語りの背後から時折浮かび上がる。戦地で没した父の遺品の文庫本を読む阿見さんは、本の書き手と父の人生を二重にたどりながら、自分と若き日の父という二人の読み手を自らの中に住まわせている。前景と後景。現実と過去。語られるエピソードと語られぬ情景。今ここにいる読み手と、もうここにはいない読み手。二重写しの世界の中で自分に注がれた物語を、どう人に手渡していくのか、あるいはいかないのか。いちば食堂で丕出子さんと笛田さんが交換する物語の輪の中に、阿見さんは入らない。阿見さんの回想、阿見さんの中の物語は、食堂にはいてもどこまでも個である阿見さんの中だけに漂っている。