ぬ井(3匹のペンギン文庫) "昏色の都" 2026年9月9日

昏色の都
昏色の都
諏訪哲史
3つの作品を収めた美しい本。グラシン紙に包まれた深緑色の本は、古書になることがふさわしい佇まい。装丁の素晴らしさが物語への没入を高めている。読書の愉しみを体現したような一冊。 格調高い幻想文学集かと思いきや、3作品とも雰囲気がまったく違うから驚かされる。 「昏色の都」 6年かけて得た視力を再び失いつつある青年が、ブリュージュ郊外の邸でその生涯を回想する。日本とベルギーにルーツを持ち、全盲から晴眼になっためずらしい半生が一人称視点で語られる。 仄暗い美に背徳を潜ませた、装丁の雰囲気そのままの幻想文学。寂しいけど読んでいて心地いい。 「極光」 北欧の夜を知らない土地の真新しい廃墟で過ごすという、穏やかで破滅的な一人旅の記録。死と隣合わせの環境に主人公自ら進んでいくさまがおそろしいけど、なぜか不思議な安らぎも漂う。世界の果てでひとりぼっちの気分が味わえる。 「貸本屋うずら堂」 少年期に通った貸本屋の想い出。店主のおじさんが描く漫画は、どれも意味不明なものばかり。そのあまりのくだらなさに圧倒されるものの、金にならなくても"無意味"を描き続けたおじさんの尊さに心を掴まれる。 おじさんの漫画はどれも猟奇的なタイトルで、内容はそれを裏切る、さして怖くない意味不明なもの。とにかく、くだらない。 そんなB級どころかC級の内容がこのエレガントで豪華な装丁の本に印刷されていること自体が、すごく贅沢に思える。電子書籍や文庫本ではなく、この装丁で読んでこその味わい。
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