サヤ "宝石のこえ" 2026年9月11日

サヤ
サヤ
@sayaemon
2026年9月11日
宝石のこえ
宝石のこえ
野沢きみ
宇宙人に声を聞かせて宝石を得る仕事をしている主人公…と書くといかにもSF小説だけれど、実際はタイトル回収以上の発展は無いので、設定の深掘りを期待する方は要注意。 ※以下、少々辛口ネタバレ 宇宙=自由と自立の新天地を目指すというラストシーンは、なるほどなと思った。 でも、主人公の肥大した自我と、それ故の共感能力の欠如がどうしても個人的に鼻につき、物語に集中しきれなかった。 そもそも主人公は自分に精一杯で他人に興味が薄いので、誰にも心を開け渡さないし、相手の意見や考えに共感したり、その影響を受け入れることが無い。つまり、反省も成長もしない。 でも彼女のそばに寄ってくる恋人、友人は何故かみな揃って優しく自立した理解者で、彼女の優れた能力・かざらない魅力・変わらない個性を認め尊重してくれる。なんて都合が良いんだ… そんな彼らとの会話すら、終始当たり障りがなく、誰も本音を語ろうとはしない。お互いを知ろうと踏み込む熱意がない。主人公が母親を「とんちんかん」と評する場面があったけれど、(どの口が…?)と唖然としたし、実際本人にも似た者親子の自覚があったので笑ってしまった。 そもそも彼女は「(人に寄り添えないことが)いけないことだって、私はちゃんと自覚している。でもどうしようもない」と開き直っている。そうした成長の放棄、逃避の姿勢は一貫していたので、ある意味この物語のテーマだったのかと思う。 それにしたって、自分の繊細で難しい境遇を明かしてくれた桜井を「自らの内面を何でもないことのように話す人間になってしまった」と哀れみさえしたのはショックだった。 彼がそうして言葉に出せるようになるまでには、様々な背景、沢山の時間、途方もない苦しみがあったかもしれないのに…どうもこの主人公には、そうした他人に対する想像力が欠けているように見えてしまう。その薄情で無理解な態度は、彼女が忌避する「故郷の愚かな人々」と何が違うの? 「綺麗なものだけ見ていたい」と望み、自分の愛着の品だけを詰めたボストンバッグを恋人に運ばせ、何の保証も無い宇宙へ、無邪気で無責任な夢想を叶えに旅立つ。 そんな身勝手で幼稚な逃避を許されたい…という願いをレジンで固め、雰囲気重視の文体で見た目良く飾り、「きれいなものだけあげる」と手渡されたのが、宇宙人の宝石=この小説なのかなと感じた。
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