めがね "一次元の挿し木" 2026年9月14日

めがね
めがね
@matsu_97
2026年9月14日
一次元の挿し木
一次元の挿し木
松下龍之介
この本は読後、満足感とやるせなさでいっぱいになった。この相反するように見える感情は、本の中で一人称が替わることによるものだと思うが、主人公だけの視点だとしても、同じように感じていたと思う。 残酷だけど/残酷だから、美しい。この本の感想を一文で言うなら、わたしはこう言う。 また、ストーリーの中でどんでん返しが続くのも印象的だった。 自分の中の事実が実は虚像かもしれない。そう疑念を持つ度に違う角度からの事実が差し込んできて、またそれにも疑念を持つ。考察がとても楽しかったし、最後にそれら伏線が回収されていくのもとても面白かった。 医学の進歩と倫理の問題が切り離せないのは痛感していた。この物語はもしかしてフィクションではないのではないかというリアルさと、フィクションでないと辛すぎるというやるせなさでもどかしかった。フィクションだから越えられてしまった倫理観が、この世界のどこかでは実はもう既に越えられてしまっているかもしれないと思うと、人間は恐ろしいものだとも思った。 ただ、この物語は負の感情ばかりではなかった。闇に触れてしまいそうだからこそ面白おかしく振る舞うとか、儚いからこそ美しく見えるとか、秘密を追うごとにそしてそれを共有するごとに深まっていく関係性がなんだか嬉しく愛おしいとか、そんな人間らしさがこの物語の救いだった。 この物語の充足感とやるせなさを増幅させていくのは、きっと倫理観だったと思う。ただ純粋にあの人を愛することの美しさ、でもその人が挿し木である残酷さ、挿し木を思いつく人間の恐ろしさ、でもその挿し木の研究が倫理観を超えて行われたことで医学分野の発展につながる(かもしれない)興味深さ、それらが混ざりつつ、この物語は生きている。 ミステリーが好きな人でも、遺伝学や生物学など理系にいる人でも、ドラマ化が決まって好きな俳優を観たい人でも、いろんな人に読んで欲しいと思った。とても面白かった。全てをわかった上でもう一度読みたいと、今思っている。
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