
ユメ
@yume_bookworm
2026年8月31日
時計坂の家
千葉史子,
高楼方子
読み終わった
感想
高楼方子さんの『十一月の扉』は昔から幾度となく読んでいる大好きな物語なのだが、この『時計坂の家』は未読だった。少女が夏休みに不思議な出来事を体験するお話だと知り、8月最後の日に読んだ。作中の季節に合わせて本書を読むのは、主人公フー子にとってのひと夏の冒険には及ばないかもしれないが、私にとっても忘れがたい体験となった。
汀館という美しい港街に位置する祖父の家で、フー子は古びた懐中時計を発見する。その時計に見入っていると、いつしか目の前の景色がぼんやりと変化し、花咲く美しい園が現れるのだ。
幻の園に対する、フー子の甘く切なく焦がれるような想い。(今ではとうに大人と呼ばれる年齢だが)私もかつては夢見がちな少女だったので、フー子の憧れには共感する。その一方で、彼女のあまりの空想力の強さが空恐ろしくもあった。
『十一月の扉』の主人公・爽子も想像力の豊かな少女だが、彼女のその力は自ら物語を綴ることに向かい、精神を健やかに育む方へと作用している(そして爽子は、そのことに自覚的ですらある)。だが、フー子は、美しいものに強く魅入られすぎる自身の性質の特別さに無自覚で、そこが危ういのだ。
幻の園に隠された恐ろしい秘密に囚われそうになったフー子を救ったのは、現実世界にできた大切な存在だった。その結末はほろ苦くもあり、一抹の温かさも孕んでいる。


