こまち "幽冥の岸 十二国記" 2026年9月19日

こまち
@komachi0319
2026年9月19日
幽冥の岸 十二国記
「幽冥の岸」 「幽冥の岸」、とっても良い短編集でした。そして、これが白銀本体に組み入れられず独立した短編集の形式で良かった。どのお話も良かったけど、本体に出てきたら世界観が変わってしまってどちらも没入感が下がりそう。 さて、ここからはネタバレ配慮なしの感想です。ネタバレを避けたい方はお気をつけて。 (以下、ネタバレあり感想) 「戦城南」 1作目は、酆都を葬うために去思が短章を連れて戦地を再訪する話。去思と短章もそれぞれ後悔を抱えているけど、酆都たち戦いで犠牲になった人間を葬る男から聞く南牆の話がひたすら辛い。博牛が出てきて白銀のあの里か、と思い、土匪を退けた後彼らを襲った理不尽。あまりにも救いがなくて、読みながら胃が痛くなりました。 驍宗様を売って自分の里を守ろうとした彦衛、彦衛を許すことなく姿を消した定摂。彼らのしたことは確かに責められることかもしれないけど、ここで白銀の中で李斎が語った「民は保身を考えても良い」が効いて、単純な善悪では語れない話だと感じました。最後、短章が語る人を善悪で分けることの難しさ、立場が変われば悪人とされる人物も善人になるという指摘が非常に考えさせられるし、その発言を踏まえてラストで彦衛に差し入れを渡す老人が救いと感じました。 表題の「幽冥の岸」とも通じる、罪を償うことが彦衛にとって救いにもなるという大きな主題が辛い話の中で希望に見えます。個人的には4作の中でこの話が一番好きです。 「異邦の客」 黄海や黄朱の里の生活の描写がひたすら興味深いし、この辺りを画伯の絵で見てみたいと思ってしまいました。 琅燦が想像より素直な跳ねっ返りのクソガキでちょっと意外でした。この話を読んで戴でのあれこれ日そのなんでも試してみたい気持ちの延長線だったのでは?と思わずにはいられない。 巌趙の為人がよくわかったのも嬉しい。巌趙がとにかく人の懐に入ることができるタイプで、いつも巌趙がそばにいたから驍宗様が自分には人望がないと思い込んだのでは、と思ってしまった。巌趙と琅燦の距離感がわかって改めて白銀での処刑の日の二人のやり取りを思い返すと辛すぎる。混乱の中行方がわからない巌趙が琅燦によって助け出されていて欲しい。 「夢の結び」 冒頭、草洽平が登場して期待が高まる中で出てくる「客の前には決して出て来ない花娘がいる」。これはまさか?と思ったところに英章登場で大はしゃぎです。妓楼に潜伏していたのがイメージ通り! 一片の慈悲も持たないような表情の英章と白玉ちゃんの組み合わせが最高だし、圧迫面接並みにガン詰めしながらも白玉ちゃんの賢さを理解し、なんだかんだで面倒見が良くごはんを運んで椅子を引いてあげる英章。英章の話が読みたいとは思っていたけど、まさかこんなオタクが死ぬ前に見る夢みたいな話が来るとは思わなかった。 そして、新作で最大のサプライズが草洽平と南瓜大夫が同一人物だったこと。これは「ええ〜」と声が出ました。南瓜大夫の人柄が描かれていたことから、彼もまた周りから昇山を勧められる人間だったのだと改めて思ったし、王にはなれなかったけど自分ができることをして戴を支えてきたその働きが王の奪還につながっていく激アツ展開でした。 最後に内容とは関係ないけど、項梁が気遣いの人すぎて戴国中に帰りを待つ母と子がいそうだなと思ってしまいました(笑) 「幽冥の岸」 この話はうっすらネタバレを踏んでしまっていたのですが、読んでみると随分ネタバレとは印象が違いました。 蓬山での西王母の宿痾が情けである意味、玉葉様が李斎の疑問(というか不信)に答える話があって良かった。これで天の不条理について一部は納得できました(李歳は全然納得してなさそうだけど)。 李斎が慶を訪問して、桂桂の言葉でようやく飛燕を思って泣けたのも良かった。李斎、辛すぎる日々だったもんね。このまま穏やかに過ごしてほしいけど、泰麒の不調が生涯続くなら、蓬山との付き合いも長く続きそう。でも、今回泰麒を連れて行く時もアポなしで普通に突撃していて、西王母にも全然畏れを感じてないから、そのうち天との付き合いにも折り合いがつきそう。 陽子が語る蓬莱の価値観とそれに驚いて衝撃を受ける李斎のシーンも必要だと思うし、陽子の言葉から、彼女も泰麒と同じく自分の立場を理解してあらゆることを飲み込んで覚悟を決めているのが伝わってきました。泰麒の覚悟という点では六太と耶利のやり取りも良かったなぁ。 と、色々書いていますが、私、景麒の膝枕と「どれほど主上を寝かし付けたか分からない」発言で全部ぶっ飛びました。えええー!?!?!? 膝枕はネタバレで知っていたけど、陽子にやってたの!?!?!? 深呼吸して続きを読みましたが、もう慶主従を見ると自動的に膝枕というワードが頭に浮かびます。 ラストが王と共に責務を背負う覚悟なのも良くて、あの驍宗様から「至らぬ王と麒麟」というフレーズが出るのもこの先苦難があっても乗り越えていけそうだと感じました。 こんなに善きお話を読むことができて幸せです。これから何度も読みたいと思います。
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